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「マカーム エチャヒド(殉教者記念碑)」のご紹介
領有されていた国を取り戻すには、困難を伴う場合がほとんどです。話し合いによって解決出来ることが最良の策ですが、歴史上では大抵、戦争に発展してしまいます。アフリカの多くの国々は、ヨーロッパの国に占領されていた時代がありました。アフリカ大陸の北部に位置するアルジェリアも同様で、20世紀の中頃に独立のための戦いが勃発しました。その時に命を落とした兵士を追悼するための記念碑が「マカーム エチャヒド(殉教者記念碑)」のです。
「マカーム エチャヒド」の設計者
「マカーム エチャヒド」のデザインを担当したのは、アルジェリアの芸術家であるバシール・イエレスで、実際の建設は、カナダの建設会社が担当しています。バシール・イエレスは、1921年に国の北西部に位置する都市のトレムセンで生まれました。首都のアルジェにある美術学校で絵画を学び、当時はフランス領であったこともあり、フランス人画家の元で更に技術を向上させました。その後、フランスへ渡ってパリの美術学校へも通っています。数々の展覧会に自らの作品を出品し、雑誌の挿絵の仕事なども手掛けていました。フランスの工房で働いていた時期もありましたが、スペインにあるフランスの学校で学ぶ機会を与えられ、アラブ・イスラム建築の様式を学びました。アルジェリアが独立してから20年間はアルジェにある母校の校長を務め、その間、国立美術館の学芸員を同時に勤めていました。20世紀の終わりころには、公共の仕事に携わる機会もあり、建物や施設の建設にも携わっていて、国外にあるいくつかの大使館などの壁面にフレスコ画を描いています。また、切手のデザインも担当しています。彼の描く絵は生まれ故郷のトレムセンを題材にしたものが多く生み出されていますが、前衛的な絵も研究していた時期がありました。アルジェリアの芸術界をけん引してきた彼は、101歳を目前にした2022年に多くの作品と後進を残して世を去っています。
「マカーム エチャヒド」の所在地
「マカーム エチャヒド」は、アルジェリア人民民主共和国の首都であるアルジェに建設されました。アルジェリアはアフリカ大陸の北に位置し、スペインやフランスが対岸にある地中海に面しています。アフリカで最も広い国土を有する国ですが、大半がサハラ砂漠で乾燥した地形です。地中海沿岸は雨量もあり、国民のほとんどが国の北部で暮らしています。19世紀にフランスに占領され、1962年に独立するまではフランス領となって、沿岸部は本国と同等の権利を持つ自治体がありました。首都のアルジェは地中海に面するアルジェ湾に面していて、海岸から南へ丘陵地帯に向けて街が広がっています。鉄鉱石や天然ガス、原油などの豊富な地下資源のほとんどは、この街の港から輸出されていて、港湾施設も整備され、国の最重要の港となっています。古代より地理的に重要視されていた街で、地中海沿岸に勢力を広げていた国々の支配を受けていました。その時々に建設された、要塞や寺院などが現在も残されています。また、フランス領時代の大聖堂や邸宅などの建物もあって「北アフリカのパリ」と呼ばれることもあります。街の旧市街地には16世紀に建設された城塞もあって、「アルジェのカスバ」と呼ばれるユネスコの世界遺産に登録されています。
「マカーム エチャヒド」の特徴
「マカーム エチャヒド」は、アルジェリアが独立して20年経った1982年に完成しました。ヤシの葉の形から発想を得たデザインの建築物でコンクリートで作られています。アルジェの街を見下ろす小高い丘の上に建設され、高さが92mで、3枚のヤシの葉は半分ほどの高さで寄り添うように合わさっています。3枚のヤシの葉は、文化と農業と産業を象徴していて、その3つが一体となって国を繫栄に導くことを表しています。また、それぞれの葉の根元にあたる部分には、独立戦争当時の兵士と、その時の国境を守った兵士と現在の軍の兵士を象った、3体の像が立っています。ヤシの葉が合わさっている所から上の中心には、直径が10m、高さが7.6mのイスラム風の小さな搭が組み込まれていて、更にその上にドームが乗せられています。記念塔の下の広場には、小搭の真下に「永遠の炎」と呼ばれる戦没者を悼み、忘れないことを誓う灯明が灯されています。また、この広場では様々な演奏会や展覧会なども開催されています。地下には独立戦争の博物館が作られています。7ヵ月と言う短い期間で建設されましたが、この地域はユーラシアプレートとアフリカプレートが接する場所で地震が多発する場所であることから、強い地震が起きても倒壊しないように作られています。
「マカーム エチャヒド」のまとめ
街のランドマークとなり、人気の観光地にもなっていることから、2017年には、下からライトアップできるように照明が取り付けられました。大きな葉を均一に照らしながら、眩しすぎないように工夫されています。アルジェリアの国旗の色に照明された「マカーム エチャヒド」は、国の為に命を落とした多くの人を弔うとともに、国の未来を象徴する記念碑でもあるではないでしょうか。
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