「バンダノン美術館と橋」のご紹介
オーストラリアを代表する芸術家が晩年を過ごした土地を自治体に寄付したことから始まった企画がありました。21世紀の姿を見ることなく、この世を去ったその芸術家が残した数多くの作品が収蔵された美術館とそれに付随した施設は、頻繁に洪水を起こす川のそばに建設されています。先住民の言葉で「深い谷」を表す名前の付いた一連の建物が、「バンダノン美術館と橋」です。
「バンダノン美術館と橋」の設計者
「バンダノン美術館と橋」を手掛けたのは、オーストラリアの南部東側にある都市メルボルンで、1965年に生を受けたカースティン・トプンソンです。彼女は、生まれ育った街の大学で建築を学び、独立するまでは地元の建築事務所で建築家として経験を積みました。また、その期間に母校の講師も務めています。1994年に建築や都市計画、景観デザイン等を扱う自らの建築事務所であるKAT(カースティン・トプンソン アーキテクツ)を開設しています。21世紀に入ってから彼女の作品が次第に評価されるようになり、大きな企画も手掛けるようになりました。また、国内の建築関係の書籍や雑誌などに、たびたびKATの名前が登場するようになりました。彼女の建築に対する姿勢には豊かな感性があります。建物は見た目ではなく、感じ方が大切だと言っていて、形として現れる前に五感で感じ取ることが重要で、それを特別な共感と考えています。建築家としての仕事の他に、建物とその敷地や環境、そして当該の建物が立つ周辺の街並みや風景の繋がりや関係性を研究しています。それらの成果を書籍として出版したり、後進のために複数の大学で教鞭を執っています。国内の様々な建築の関する賞を受賞していて、最近では国の建築家協会が優れた個人の建築家に授ける最高の賞を授けられ、協会の終身会員になりました。
「バンダノン美術館と橋」の所在地
「バンダノン美術館と橋」は古くから洪水や森林火災が頻発する場所に建設されました。オーストラリア大陸の南東に位置するニューサウスウェールズ州は、隣国のニュージーランドを挟んだ南太平洋のタスマン海に面していて、首都のキャンベラと国で最大の都市シドニーを擁する国内で1番開発が進み、人口も多い州です。キャンベラとシドニーのほぼ中間にあるナウラと言う町の近郊に「バンダノン美術館と橋」があります。ナウラは2万人を少し超える人口のある地方の町で、町の周辺は酪農の為の牧草地や国有の森林が点在している自然が豊かな所です。国の2つの大都市から、それぞれ100kmちょっとの距離にあることから、休暇を自然の中で過ごしたい人や、仕事を離れた人々が後の人生を過ごすために選ばれる町となっています。町の近くを流れるショールヘイブン川は東オーストラリア山脈に水源があり、タスマン海まで300km以上の距離を流れています。川の上流には唯一の大きなダムが建設されていて、シドニーに供給される水の1部を担っています。ところが、このダムが建設されたことで淡水魚の漁場だった川から魚が回遊できなくなりました。近年ではそれを回避するためにダム湖にそれらの魚が放流されて環境の改善が図られています。
「バンダノン美術館と橋」の特徴
2021年に完成した「バンダノン美術館と橋」は、複数の建物で構成されています。美術館は地下に作られていて、この土地を寄付した芸術家の作品が展示されています。絵画などが適切に保てるように温度や湿度が管理しやすいように地下に作られましたが、1部の天井には日中の自然光が入るようになっています。この施設で1番特徴的な建物は、幅9mで長さが160mある、まるで丘から丘を渡る渡り廊下のような横に細長い建築物です。設計者が参考にした架台橋を思わせる建物には宿泊施設や、飲食のできるスペースが作られています。架台橋(トレッスル橋)とは、下が少し広がった橋脚を短い間隔でたくさん連ねて作られる橋の事で、山間の谷を渡るために建設されることが多く、鉄道橋として利用されていました。敷地の形状を壊さないで、そのままの土地の形を利用するためにまるで谷を渡る橋のような形になりました。地面から1番高い所が15m以上ある、垂直に立てられた鉄骨の柱を支えて補強するために、対角線になるように取り付けられた支柱が美しい形を生み出しています。建物の開いた空間には、利用者の安全のために金網が取り付けられています。この金網は、訪問した人が風景を楽しむための邪魔にならないように、太さと間隔が綿密に計算されたものが使われていて、遠目に見ると金網があることがわからないくらいになっています。
「バンダノン美術館と橋」のまとめ
「バンダノン美術館と橋」が作られることになったのは、20世紀の終わりころにオーストラリアの芸術家夫婦が自宅を含む土地を国に寄付したことから始まりました。四国の約半分もある広大な敷地のほとんどは自然のままの状態です。最初に建設された教育センターは、建築家のノーベル賞と謳われるプリッカー賞を受賞したオーストラリアの建築家が設計しています。ここには多くの芸術品があり、風景そのものも訪れる人に感銘を与えています。「バンダノン美術館と橋」を含む複数の建物も芸術作品の1つとなって、様々な賞を受賞している賞賛されるに値する建築物となっています。
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