アル バハール タワー(Al Bahar Tower)

「アル バハール タワー」のご紹介

 

世界には地域は違えど古くから伝わる様々な技法があります。例えば、日本では生地を補強するために刺し子と呼ばれる技があります。布地に糸でかがる手法ですが、そこにはいろいろな紋様が縫い込まれています。遠く離れた中東のイスラム世界には、強い日差しを遮るための日よけが建物に設置されていますが、それにも様々な幾何学模様が作りこまれています。それらの模様には似通ったものもあり、異国であっても通ずるところがあります。中東の大都市に建設された高層建築物には、伝統の模様をあしらった最新技術の日よけが取り付けられています。

「アル バハール タワー」の設計者

 

「アル バハール タワー」を手掛けたのは、イギリスのウェールズにある小さな町で1954年に生を受けたキース・グリフィスです。グレートブリテン島の南西に位置する、ケルト海に面した岬の町で育った彼は、ケンブリッジ大学で建築を学びました。学業を終えた後に、イギリスに本部を置く多国籍企業で建築に関する様々な事柄を習得しました。2年間その企業に席を置いたあと、イギリスの著名な建築家の事務所に所属して、香港の大規模な企画に携わったことが彼の建築家としての成功に結びつきました。その企画のために1983年に香港に移り住み、2年後の1985年に独立して、同じイギリス人建築家のパートナーと共同で事務所を開設しています。香港を拠点として主に東南アジアでの活動で彼らの実力が認められ、次第に事務所は大きくなっていきました。いくつかの企業を併合して会社も大きくなり、アジアだけでなく中東やアメリカにも事務所を置くようになって、2002年には社名を「Aedes (アエダス)」と改名しました。現在、この会社は1,000人以上のスタッフを抱える世界でも十指に入る大企業に成長しています。彼は数十年もの間、故郷を離れていますが、原風景はウェールズにあると言っています。近年彼は、ウエールズの歴史的に重要と思われる建築物を保存するために、当該の建物を購入して修復するための組織を新たに設立しています。

「アル バハール タワー」の所在地

 

「アル バハール タワー」は、7つの首長国で構成されるアラブ首長国連邦の首都を務めるアブダビ市に建設されています。アブダビ首長国はアラブ首長国連邦の中で1番面積が広い国で、約8割をこの国が占めています。地球上で1番大きなアラビア半島の東側に位置していて、アブダビ市は半島から数百メートル離れたペルシャ湾に浮かぶアブダビ島に街の中心が広がっています。ドバイに次ぐ人口の多い街で、世界で最も裕福な都市と呼ばれています。石油などの地下資源はありますが、半島はほとんどが砂漠地帯になっています。気候は暑く乾燥していて、夏季は40℃を越えることがよくあり、度々砂嵐が発生しています。冬季でも気温が10℃を下回ることは無く、わずかな降水もありますが、年間の降水量は日本での1時間の集中豪雨の規定と同じくらいです。そのような地理と気候なので、都市に必要な水はいつも不足していて、大規模な海水の淡水化プラントが8つあり、飲料水などの生活用水を賄っています。地下水の利用もありますが、ほとんどが塩分を含んだ水で、1部は海水よりも塩分濃度が高くなっています。水はこの街ではとても大事な物なので、雑排水も処理されて灌漑用や緑地帯の為の散水に使用されています。

 

「アル バハール タワー」の特徴

 

「アル バハール タワー」は2012年に完成した超高層建築物で、高さ145mの29階建てです。円筒形の2つの建物は模様を織り込んだケープを纏っているように見えます。1番の特徴である外観は日よけの役割を持つ構造物で、コンピューター制御によって太陽の日差しを自動で遮るように出来ています。建物の外壁はガラス壁になっていて、その壁から2m離れた位置に日よけが設置されています。「アル バハール タワー」が建つ地域には、建築物に付属する伝統的な構造物があります。「マシュラビヤ」と呼ばれる、日本の「すだれ」や「よしず」のような役割を果たす、強い日差しを遮りながら空気の流れを滞らせないものです。「アルバハール タワー」に取り付けられている日よけは建物の北側を除いて周囲を取り囲むように設置されています。日本の「麻の葉」模様に似た三角形を繋ぎ合わせた形になっていて、日差しが当たると開き、陽の当たらないところは内側に閉じるようになっています。建物のそれぞれに、1,000枚の細かな穴が開けられたグラスファイバー製のパネルが、建物から垂直に突き出している鋼鉄製の柱に取り付けられています。開閉には、モーターの回転駆動を垂直方向に動かす仕組みの電動リニアアクチュエータと呼ばれる機械構造が使用されています。この日よけは建物内部の直射熱を50パーセント削減することに成功していて、空調に使用されるエネルギーも少なくなっています。

「アル バハール タワー」のまとめ

 

近年は規模の大小を問わずエネルギー消費の少ない建物が多く建設されています。最新の技術や様々なアイディアを駆使して作られる建物の中には、一見の価値がある物もあります。「アル バハール タワー」の設計者は、建設地の伝統的な構造物を大きな規模にしたうえで最新の技術と素材を利用して作り上げています。「アル バハール タワー」は、昔と今の良いものを組み合わせた良い例と言える建物ではないでしょうか。

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