エクスベリー エッグ(Exbury Egg)

「エクスベリー エッグ」のご紹介

 

水の上で暮らしている人々は古くから世界中に存在しています。その形態は、船であったり、高床式の家屋であったり、南米には植物で浮島を作る民族もいます。水があることで快適に暮らせる場合もありますが、近年では気候変動を懸念して水上でも生活できる様々な実験も行われています。設計者が「浮遊卵」とも呼ぶ「エクスベリー エッグ」は、いくつかの実験も兼ねて造られた卵の形をした水に浮かぶ家です。

「エクスベリー エッグ」の設計者

 

「エクスベリー エッグ」を作るにあたっては多くの人が関わっています。発案者は、芸術家のスティーブン・ターナーです。ある時散歩をしていた彼は、セグロカモメの卵を踏みそうになって、その時に水に浮かぶ卵を思いついたという事です。その企画を後押ししたのが、SPUD(スペース、プレイスメイキング、アーバン デザインの頭文字でスパッドと呼ばれています)グループと言う芸術と建築、更に教育に携わる人々を繋ぐことを目的とした団体です。2011年に設立されたこのグループは、2人の建築家が中心となって、2005年に開校したイギリス南部にあるソレント大学の建築、設計の学科から派生した組織です。「エクスベリー エッグ」の設計を担当したのは、北アイルランドの農場で育ったウェンディ・ペリングが率いるPAD(パッド)スタジオです。彼女はエジンバラ大学を優秀な成績で卒業し、イギリス最大手の建築事務所と芸術や教育関係の建築を得意とする事務所で実践経験を積みました。その後、2003年にイギリス南部の街、リミントンに自らの事務所を開設しました。彼女は小さいころから農場にある様々なものを使い、建築物のようなものを作って過ごしていたようです。大学に進むためにエジンバラへ行った時や、働くためにロンドンで暮らしていた時に、環境に対して大きな興味を持ちました。PADスタジオでは、彼女が興味を持ったことを依頼者と共に進める方法をとっているので、財政的には最良とは言えませんが、その様なやり方をしていたことで「エクスベリー エッグ」を作り出すことが出来たと言っています。

「エクスベリー エッグ」の所在地

 

「エクスベリー エッグ」が最初に設置されたのは、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(イギリス)南部のハンプシャー州エクスベリー村近くを流れるボーリュー川です。ボーリュー川は長さが20kmほどの小さな川ですが生態系の豊かな川で、ある貴族の所有物となっています。川の名称はフランス語で「美しい場所」と言う意味があり、以前はイギリスの古い言葉で「魚」や「魚の住む場所」を意味するエグゼ川と呼ばれていました。エクスベリーにはもう一つ個人所有の素晴らしい場所があります。エクスベリー・ガーデンは皇居外苑より2割ほど狭いですが、広大な庭園が造られています。四季折々の花々が咲き、小さな水路や池、遊歩道が整備され、開園中は誰でも散策が出来る国内でも有数の庭園です。また、この地域はニューフォレスト国立公園に接していて、ボーリュー川はその中央部を流れています。11世紀に王家の森として宣言され、2005年に国立公園となっています。この森は王家の鹿狩りの森として様々な制約がありましたが、近隣の畜産を営む人々の重要な放牧の場所でもありました。長い年月で、それらの家畜もこの地域の生態系に欠かせない存在となっています。多くの鳥類や草食動物が豊かな生態系を育み、固有種の馬や数種類の鹿が生息しています。

 

「エクスベリー エッグ」の特徴

 

「エクスベリー エッグ」は水に浮かぶ木で出来た卵で、芸術家の作業場と住居に加えて、このような住居が将来的に必要となった時の為の実験を兼ねています。長さ6m、最大径が2.8mの卵型をしていて船のように水に浮かぶように作られています。建設のために使用された素材のほとんどは地元で調達されています。骨組みに使われたのは米松の木材で、外側を覆っているのは杉材で作られた合板です。地元に古くから伝わる船の作り方を参考にして作成され、造船の技術を持っている人もこの企画に参加しています。開口部は2つあります。1つは出入り口となる部分で、上下2つに別れていて、下の部分だけを閉じれば窓の役目も果たします。もう1つは、天井に取り付けられている丸い天窓です。晴れた日は、この天窓からの自然光で「エクスベリー エッグ」の中は十分明るくなります。電力は携帯の太陽光発電で賄われています。ボーリュー川の河口に係留され、潮の満ち引きや天候の変化に、天然資源を使用したこのような構造物がどれくらい持ちこたえられるかを実験しました。潮が満ちれば水に浮かび、潮が引いた時には川床に着地し、1年間の風雨と日光に晒された赤味を帯びていた杉材の外殻は、白っぽい色に変わっています。気候変動によって海岸の水位の変化や、住む場所の確保のための実験で、設計者はこのような状況で建築家に何ができるのかを知りたかったようです。快適に暮らすための最低限の条件と、環境への負荷のバランスを「エクスベリー エッグ」が実証しました。

「エクスベリー エッグ」のまとめ

 

「エクスベリー エッグ」は当初の計画通り1年間の実験を終えた後、イギリス国内の様々な場所で展示されました。1人が住む空間として「エクスベリー エッグ」が広いのか、狭いのかは、それぞれの感覚で変わってくるでしょう。しかし、最低限の設備を備え、芸術家が創作活動も行えるという事は、自然に身を任せる事を幸せと感じられるのであれば最高の住居とも言えるのではないでしょうか。

 

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