チャキワシ(Chaki wasi)

「チャキワシ」のご紹介

 

伝統やしきたりを、時代にそぐわないとして切り捨てる風潮や人がいる一方、先人の残した知恵として大事にしている地域や人々もいます。確かに時代に適応しない事柄もありますが、少し見方を変えれば未来に続く可能性を見出すことも出来ます。南米のアンデス山脈に近い場所に古くから住んでいる人々は、地域の活性化のために新しい公共の建物を建設しました。伝統と風習が盛りだくさんの「チャキワシ」は観光地に建つ手工芸品センターです。

「チャキワシ」の設計者

 

「チャキワシ」の設計を担当したのは、エクアドルの首都キトに拠点を置く実験的な建築事務所のラ・カビナ・デ・ラ・キュリオシダッドです。ラ・カビナ・デ・ラ・キュリオシダッドとはスペイン語で「好奇心の小屋」と言う意味で、夢を実現するために地域の伝統的な素材を使い、古くから伝わる手法で建設することを重要視しています。この事務所はフランス人のマリー・コンベットとエクアドル人のダニエル・モレノ・フローレスの2人が共同で2019年に開設しました。マリー・コンベットは1987年にフランス東部のヴズールと言う町で生まれました。フランスの大学で建築と哲学を学び、高等建築学校で更に建築を学んでいます。彼女は、職人技を大事にしたうえで、実験的で、独創的な建築を提案できる建築家です。ダニエル・モレノ・フローレスは1984年にフランスのマルセイユで生まれ、エクアドルとアルゼンチンの大学で建築を学んでいます。子供の頃は色々な物を作ることが好きで、様々な素材で物づくりを楽しんでいました。母親が芸術家であったことから、材料には困らなかったと彼は語っていて、長じて建築家になった根源がそこにあったようです。移動式の実験室のような「好奇心の小屋」は、南米の様々な企画を実現しています。彼らの理念は、夢を見る、喜ぶ、共有する、最適化する、学ぶで、自分たちだけでなく多くの建築家と連携を取って問題を解決に導いている、特異とも言える事務所です。

「チャキワシ」の所在地

 

「チャキワシ」は、エクアドル共和国にある火山湖の近くに建設されました。エクアドルは南米大陸の北西部にある国で、太平洋に面していて多くの固有種を擁するガラパゴス諸島を領有しています。南米の北部は、紀元前から様々な古代文明が栄えていて、この国も中世の頃のインカ帝国の1部でした。スペインの植民地だったことから、公用語は現在もスペイン語ですが、いくつかの先住民の言語も使われています。「チャキワシ」が建つ火山湖はズンバグアと言う町にあるシャララ コミュニティにあります。この地域は、アンデス山脈の西側に位置していて、3,500m弱の標高があり、首都のキトから約90km南西に向かった場所です。町の北に、古代の火山が残したトルコブルーの水をたたえているキロトアと言う火山湖があります。キロトア火山が最後に噴火したのは約800年前で、その時の噴火と山体の崩壊によってカルデラが形成されました。キロトアは国内のアンデス山脈の1番西の端にある火山で、湖底には噴気孔があり、近くに温泉も湧出しています。湖の色は様々な鉱物が溶け出た緑がかった色合いで、その時の湖の様子や天気、季節や気温などの影響で微妙に色調が変わっています。周辺には展望台も設置され、小さな船で湖水を渡ったり、ハイキングコースやキャンプ施設も整備されていて、人気の観光地となっています。

 

「チャキワシ」の特徴

 

「チャキワシ」は現地に住む先住民族の言葉で、「床から屋根まで全て藁でできた建物」を表しています。中央部がくり抜かれた円形の建物は、その名の通り、外観は干した草で覆われていて、柔らかで温もりのある印象を与えています。建設は、伝統に添った手法で全て地元の人の手によって行われました。建物の土台と基礎は川底にある石が使われ、建物の中心にある円形の広場も石畳みのようになっています。骨組みは、地元で伐採されたユーカリの木材が余すところなく使用されています。骨組みには木材の太い部分が使われ、細い枝は金属の釘の代わりに使われました。木材同士を束ねたり交差した部分を縛るために、リュウゼツランの1種であるペンコと現地で呼ばれる植物の繊維から作られたカブヤと言うロープも作られました。また、作品や商品を陳列する台や棚も建物と同じ方法で作られ、取り付けられています。干し草の藁や、川の石などの建設材料は、建設地に住む人や近隣の地区の人々が協力して集められました。建設に於いても、この地域に古くから伝わる伝統に基づいて行われました。インカの時代から伝わる「ミンガ」と言うしきたり通りに、共同体の若い男女によって建設が進められ、大きな作業の時には総出で行われましたが、担当者は週ごとに交代しました。建設に使用された道具も、全てこの地で昔から使われていたものです。

「チャキワシ」のまとめ

 

「チャキワシ」の建設は、火山湖を訪れる人の為だけでなく、伝統的な建設方法や、作業をするときのしきたりを後世に伝える役割もありました。そのため、「好奇心の小屋」は設計と企画の大まかな部分だけを担当し、後はその地域の共同体にまかせました。しきたりや伝統を全て後世に残す価値があるかはわかりませんが、失ってしまったら2度と蘇らない事柄はたくさんあります。「チャキワシ」は、未来に伝える有形、無形の様々なものが詰まっていると言える建築物ではないでしょうか。

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