ヴァルトシュピラーレ(Waldspirale)

「ヴァルトシュピラーレ」のご紹介 

 まるで森に埋もれたような建物がヨーロッパの内陸の都市に建っています。「ヴァルトシュピラーレ」はおとぎ話に出てくるお城のようだと、度々例えられる柔らかなラインと色をしています。ここに暮らす多くの人々は都会の中にあっても、自然の緑豊富な森に住んでいるような感覚になる。そんな集合住宅です。 

「ヴァルトシュピラーレ」の設計者 

 

1928年オーストリアの首都ウィーンで生まれた、フリーデンスライヒ・レーゲンターク・ドゥンケルブント・フンデルトヴァッサーと言う長い名前の芸術家であり建築家が「ヴァルトシュピラーレ」のデザインと設計をしました。彼の本名は、フリードリヒ・シュトーヴァッサーと言いますが、先に紹介した名前はペンネームのようなもので、通常は短くフンデルトヴァッサーと呼ばれる事が多いようです。彼は画家としての活躍もありますが、普通の絵画ではなく、様々な物のデザインを手掛けています。いくつかの切手や、採用はされませんでしたが複数の国の国旗をデザインしています。また、「百水」と言う雅号を使って風呂敷のデザインをしています。彼の名前のフンデルトが百を、ヴァッサーが水を表していることから「百水」と言う雅号を付けたようです。他にも、彼の絵を表した独特なカラフルさのある毛糸が現在も売られています。彼は自然が好きで、環境保護にも力を注いていました。彼の作る建築物は、不自然だと言う理由で直線や鋭い角を作りませんでした。このような建造物は、スペインのサグラダファミリアの建築に携わっていた、アントニ・ガウディの作品と共通する所があります。様々な分野で影響を与えていた彼は、第二の故郷としていたニュージーランドに向かう船の上で、71歳の生涯を終えました。 

「ヴァルトシュピラーレ」の所在地 

 

 ドイツ連邦共和国の西部にある、ダルムシュタットと言う都市に「ヴァルトシュピラーレ」が建っています。夏は30℃を超えることは少なく、冬でも氷点下になる日があまりない穏やかな気候の地域です。19世紀に設立され、世界で初めて電気工学の学部を作ったダルムシュタット工科大学を始めとする複数の大学を擁し、数万人の学生が学ぶ学術都市としても名高い街です。また、人工衛星などの宇宙開発や、自然化学など様々な分野の研究機関や研究所が多く、特に科学技術の分野に於いては世界でもトップクラスの研究が行われています。中でも重イオン研究所では、街の北側にある粒子加速器を使っていくつかの新しい元素を発見しています。原子番号110番のダームスタチウムは、この街の名前から付けられ、ドイツ国内で始めて自治体の名前が元素名に使用されました。芸術の分野でも、19世紀後半から20世紀の初頭にかけて花開いたアールヌーボーのドイツでの中心地として、現在も残る建築物などがあります。自然をモチーフとした柔らかな曲線が美しい、ユーゲント・シュティールと呼ばれるドイツ版アールヌーボーの代表作とも言える「ウェディングタワー」など、いくつかの建築物はユネスコの世界遺産にも登録されています。 

 

「ヴァルトシュピラーレ」の特徴 

 2000年に完成した複合集合住宅の「ヴァルトシュピラーレ」は、最高階が12階で105戸の住宅があります。絵本の挿絵に見られるような、西洋のお城を思い起こさせる外観をしています。設計者のフンデルトヴァッサーの作品に共通する、直線部分や角のない建物で、1000枚以上ある窓は一つとして同じ形のものはありません。ドアのノブも少しづつ形の違うものが取り付けられています。この建物の一番の特徴は、1階から12階に至るまで緩やかな傾斜を伴う屋根ではないでしょうか。平面で見るとアルファベットのU字型になっていて、1階だけの所から最上階のある所まで、屋上庭園を形成するように多くの樹木や植物が植えられています。このような見た目から「螺旋の森」または、「森の渦巻」と呼ばれています。「ヴァルト」は森を、「シュピラーレ」は螺旋を表すドイツ語で、正に螺旋を描く森が建物を取り巻いているようです。建物の一番高い所と途中に金色の玉ねぎのような形のドームが据え付けられていますが、この造形物はフンデルトヴァッサーのこだわりだという事です。建物の色は彼の作品にしては、やや控え目ですが、うねうねとしたラインと色で建物が建っている場所の土地を表しているそうです。「ヴァルトシュピラーレ」は、まさしくアースカラーの住宅と言える建物ではないでしょうか。 

 

「ヴァルトシュピラーレ」のまとめ 

 

 「ヴァルトシュピラーレ」は、再生コンクリートを使って建設された建物で、屋上緑化と共に環境に配慮しています。下水には雨水を利用している所もあります。地下に駐車場があって、中庭には小さな池や滑り台などのある子供の遊び場も作られています。住居だけでなく、カフェや小さな商店もあり、住人でなくても内側からもこの建物を楽しむことが出来ます。設計者のフンデルトヴァッサーは「ヴァルトシュピラーレ」の完成を見ることはできませんでしたが、彼の思いはこの建物の至る所に息づいているのではないでしょうか。 

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