バレー タワー(Valley Towers )

「バレー タワー」のご紹介

 

街の中心部の無味乾燥で味気ない景色を自然豊かな風景に作り変えるのは、大変な時間と労力が必要となり、国や自治体の法規制も加えると、実現させることは不可能に近いこともあります。しかし、西部ヨーロッパにある国の都市には、険しい自然の風景を持った大規模な建物が建設されました。まるで、渓谷を切り取ったような外観の複合建築物が「バレー タワー(谷)」です。

「バレー タワー」の設計者

 

「バレー タワー」を手掛けたのはオランダにある建築事務所のMVRDVです。21世紀を目前とした1993年に、ロッテルダムで3人の若い建築家が共同で開設した事務所です。1959年に生まれたウィニー・マースと1964年に生まれたヤコブ・ファン・ライス、1965年生まれのナタリー・ド・フリースの3人はオランダ南西部のデルフトにある工科大学を卒業しています。彼らは、2年ごとにドイツで開催される建築デザインの競技会に共同で参加し、優勝したことをきっかけに、そのまま一緒に活動を続けるためにMVRDVを創設しました。事務所の名前は3人の名前から少しづつ取ってつけられています。彼らの手掛ける企画は集合住宅が多く、一見すると独創的で、奇抜な建物が作られています。しかし、そのような外観になったことには様々な理由があります。住む人全てが気持ちよく暮らすにはどうしたらよいか、多くの課題を解決しながらデザインしていった結果が一風変わった建物になっています。加えて、彼らは街の構成要素を色々な視点から考える都市計画や、景観を整えるために広場や公園など屋外にある公共の場所をデザインする、ランドスケープも手掛けています。彼らはそれぞれ、ヨーロッパやアメリカの大学で教鞭をとり、ヨーロッパやアメリカ、中国にオフィスを構え、世界中に新しい街を作っています。

「バレー タワー」の所在地

 

「バレー タワー」はオランダ王国の首都アムステルダムに建っています。この街は法的にはオランダの首都ですが、政治の機能は他の都市にあります。先史時代の遺跡が発掘されていて、太古より人が暮らしていたようです。しかし、街としては国内でも歴史は浅いほうです。元々は北海につながる奥まった湾があって、近辺には湿地帯が多く存在していました。その地域を干拓によって利用価値のある土地にされたのが11世紀頃のことです。最初は農地や燃料として使われていた泥炭を採取していました。次第に農村のような集落が出来ましたが、泥炭の採取によって土地が沈んできたことから、沖合に堤防が建設されました。また、街の名称の元となったアムステル川が何度も洪水を引き起こしていたことから、川の河口に水門の役割をするダムが建設されたのが12世紀の頃です。このような土地柄であったことから、運河も多く建設されています。最大の運河は北海に通じている為、アムステルダムは港湾都市の機能もあります。街は運河によって島のようになっていて、90以上に分かれています。それぞれの島を繋ぐ橋は市内に2,000以上もあり、番号で管理されています。しかし、半数近い橋には名前も付けられています。運河ベルトと呼ばれる水路で幾何学的に分けられた美しい街並みは、2010年にユネスコの世界遺産に登録されました。

 

「バレー タワー」の特徴

 

ガラスの外壁を持つ大きなビルの中心部を岩山のような形にしている建物が「バレー タワー」です。2022年に完成した複合ビルで、高層階は高さが67mと81m、100mの3棟に分かれています。地下に駐車場があり、下層階は店舗や事務所などが入って、8階以上が住宅になっています。道路に面した側は垂直でガラスの外壁に覆われています。しかし、内側になっている部分はゴツゴツした岩肌のような印象のある外壁になっていて、40,000枚以上の天然石の石板で覆われています。思い思いの方向にデコボコした外壁には、窓とテラス、植物が植えられている植木鉢の役割を果たしている部分があります。数か所は外に向かって大きく張り出ていて、まるで空中に浮かんで見える場所もあります。このような形になった理由は、働く人や住人、訪れる人全てに心地よい空間を提供するためで、住宅は全て間取りが違います。下層階までは、この建物を訪れる人のために外壁と同じ素材の外階段が2つ設置され、道路から直接入れるようになっています。下層階の中央部には、多くの植物が植えられた空中庭園を思い起こさせる空間があって、公園の役割もあります。また、下の階にはガラスの天窓になっている通路もあります。天窓の上には水が張ってあり、池のような形になっています。このような不規則な外観が見事に収まっているのは、多くの人の頭脳と職人技とコンピュータの手を借りて綿密な計算を行った結果です。

 

「バレー タワー」のまとめ

 

街の中に自然を加えると言う提案があれば、緑地帯や公園を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。設計者は「バレー タワー」は、まだ完成していないと言っています。それは、植物が育っていないからです。下層階には低木と若い樹木が植えられていて、高層階には多くの植物が植えられています。加えて、それらの植物が生育するために欠かせない水や昆虫、鳥類の住処になる所も考慮されています。正に自然の山峡を都市の中に移してきたと言える「バレー タワー」は、成長していく建物と言えるのではないでしょうか。

 

 

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