在水美術館(Zaishui Art Museum)

「在水美術館」のご紹介

 

古来より海や川などの水上に家屋を建てて住んでいる人々が世界中にいます。近年では技術の進歩や新しい素材の開発によって、水中に建物を作ることも可能になってきました。それでも湖面に浮かぶような、若しくは半分沈んでいるような建造物は発想の勝利ともいえます。「在水美術館」は、湖にたなびく白い絹のように見える優美な建物です。

 

「在水美術館」の設計者

 

「在水美術館」とその周辺の施設を手掛けたのは、東京に事務所を置く建築家の石上 純也(いしがみ じゅんや)です。1974年に神奈川県で生まれ、東京藝術大学で建築を学びました。大学を卒業してからの4年間は東京にある建築事務所で経験を重ね、2004年に自らの建築事務所を設立しました。彼は都市計画や建物の建築に対して、既存の概念に頼らない考え方を持っています。第二次世界大戦が終わって、20世紀の半ば頃の高度成長時代に多く建設された、量産型の箱のような個性の無い建物が現在でも建設されていることを残念に思っているようです。そして、都市が形作られていく中で、明確な禁忌ではないものの暗黙のルールのような事柄に対して疑問を呈しています。建物を作るときに建設用地の地形を変えるのではなく、建物を地形に合わせたり、建物を作ってそれに沿った街作りをしたり、順番が逆のような方法も考え出しています。新しい素材や技術が考案され、以前とは比べ物にならない建物を作り出すことも可能になってきましたが、大元にある考えが変わらないと新しいものは生み出せません。彼の柔軟な発想はそれらを生かすことができ、都市と個々の建物や環境の間の境界を曖昧にするような作品を作り出しています。斬新に見える彼の作品は自然に溶け込むのではなく、自然そのままのような印象を与えています。

「在水美術館」の所在地

 

中華人民共和国の東部に位置する山東省の日照市(リージャオ市)にある人工湖の中に「在水美術館」が建設されています。山東省は、黄海に突き出た山東半島を含む黄河の下流域に広がっています。日照市は山東半島の南側の付け根に位置していて、省内で最大の都市である青島市の南の沿岸に広がっています。太陽の光が最初に差し込む場所と言われていることから、日照の地名が付けられています。この街は、地名にふさわしい取り組みが行われていて、1992年から新築の建物には太陽熱温水器の設置が義務付けられています。現在はそれに加えて太陽光発電のためのパネルの設置も義務付けられていて、それらの施工のために技術支援などが自治体によって行われています。このような取り組みは世界的にも認められていて、世界で最も住みやすい都市に選ばれたことがあります。黄海に面していることから、青島に次ぐ港湾整備が整えられていますが、海岸線は約100kmもあります。海岸線には砂浜も多く、国内でも有数のウォータースポーツを楽しむ設備が整えられていて、国内のウォータースポーツの中心地とも呼ばれています。21世紀に入ってから大規模なマリンスポーツの施設や公園施設が整えられて、数々の世界選手権などの大会が開催されています。

 

「在水美術館」の特徴

 

2023年に完成した「在水美術館」の1番の特徴は、全長が約1kmある細長い形状で、部屋を分けるような仕切り壁がない1つの部屋、若しくは1本の通路のような建物です。人工の湖の長さとほぼ同じで、湖の長い方の端から端までの水の中に建設されています。コンクリートとガラスで作られたこの建物は白い色をしていて、一直線に湖を横断しています。まっすぐの長い1本の線のようですが、屋根は不規則で緩やかな傾斜が連続しているので、風や水の流れのような動きを見ることができます。屋根の形状と連動する天井は6mから1.2mまで高さが変わっています。この建物のもう1つの特徴は、屋根も壁もある建物でありながら屋外との境界が無いような印象を与えていることです。ガラスの壁の下には隙間があって、そこから屋内に水が入るようになっています。床の壁側はわずかな傾斜を持たせて低くなり、蛇行するように床の中央部分が少し盛り上がっています。その様子は干潮の時に現れる砂州のようです。屋内は最大で水深が10cmまで上がるようになっていて、まるで湖の中を歩いて渡っているような印象を持たせています。水底に床の中央部分と、屋根を支える6m間隔で設置されている150本のコンクリート柱のための基礎が別々に作られています。壁は900枚のガラスが使われていて、明かりは太陽光だけで人工照明は非常灯以外は使われていません。また、外気を導入できるように100枚の可動できるガラス窓があります。

「在水美術館」のまとめ

 

設計者は、「在水美術館」の他に近隣のいくつかの関連した建物も手掛けています。それに加えて、「在水美術館」の中に設置されている椅子やテーブルのデザインも行っていて、砂岩を使って地元の職人が作成しています。「在水美術館」は、周囲の景色に加えられた全長が1kmもある建物ですが、その形と白い色で大きさを感じさせない、軽やかな建物となっているのではないでしょうか。

 

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