コソル天文台(Caussols – Observatoire)

「コソル天文台」のご紹介

 

世界中で様々な事柄を研究している人々がいます。その人たちが研究している場所も多種多様ですが、研究所と呼ばれる施設に堅苦しい印象を持つ人も多いのではないでしょうか。フランスの高原に建設された天文台には、研究する内容は元より、研究する人のために設計された建物があります。「コソル天文台」は、一見しただけでは天文台に見えない独創的な形をしています。

「コソル天文台」の設計者

 

「コソル天文台」にある2台の大型干渉計を含む研究施設をデザイン、設計したのはハンガリーの首都、ブダペストで1920年に父親がロシア人、母親がフィンランド人の元に生まれたアンティ・ロヴァグ(ハンガリーではロヴァグ・アンティ)です。彼が最初に専門的な事柄を学んだのは造船に関する事でした。その時に、限られた空間で心地よく過ごせるためにどうすれば良いかを考えていたようです。家具などの調度品や、部屋の形などを考えていた結果、人間にとって心地良い空間とは四角い部屋ではなく曲線を使うことが自然だと結論付けました。彼は、直線は自然に対する攻撃と言っていて、円を多用する理由は一番単純な形であるとも言っています。円を3次元化すると球状になり、それは強靭で軽量化もできると考えていました。その結果、「バブル ハウス」と呼ばれるいくつかの球形建築物を完成させています。50歳を目前にした頃、心臓を悪くした彼は第一線を退き、自らを「習慣学者」(または、生息学者)と呼び、新しい建築技術などの研究をしていました。「建築は仕事ではなく生き方だ」と言っていた彼は、その言葉通り、2014年に南フランスの試作中の家で94歳の人生を終えています。彼は、球形建築の先駆者であり、様々な分野に影響を与えています。例えばアメリカ人とフランス人夫妻の絵本作家が創作した絵本の中でキャラクター達の家として球形住宅が描かれています。また、初期に建設された球形住宅はフランスの歴史的建造物に指定されています。

「コソル天文台」の所在地

 

「コソル天文台」は、フランス共和国の南東部に位置するコソル(または、コソルス)と言う小さな村の近郊に建設されている複数の天文台の中の施設です。この村は地中海まで20kmほどの高原地帯に点在する小さな自治体の1つで、名称のコソルは石灰石を表すラテン語のライムが由来となっています。フランスの18に分けられた地方共同体の1つ、プロヴァンス・アルプ・コート・ダジュール地域に属しています。映画祭で有名なカンヌや世界的にも有名な地中海リゾートのニースを擁する地域です。現在はコート・ダジュール天文台の1部になっている、元々カラン天文台と呼ばれていた複数の天文台は、コソルも含むカラン高原に設置されています。カラン高原は最高地点の標高が1,500m弱のカルスト台地です。石灰岩の露頭が多く見られ、浸食による洞窟やドリーネとも呼ばれる大小の陥没穴が存在しています。また、特徴的な動植物が生息していて、豊かな生物相を守るためにヨーロッパ各国で制定している、ナチュラ2000ネットワークの1部に含まれています。

 

「コソル天文台」の特徴

 

「コソル天文台」は、2台の大型干渉計GI2Tを設置し、観測するために1974年から5年かけて建設されました。設計者のアンティ・ロヴァグが得意としていた泡のような形状の球体建築で、外観は全く天体観測を行っているような建物には見えませんが、惑星の形を意識したと言っています。外観の色は灰白色で、近くにある他の天文台の色や、付近に点在する露頭している石灰岩の色に合わせてあります。金網状の骨組みにコンクリートを吹き付けて形作られ、出入口は長い楕円形で、窓は船の舷窓のように円形になっています。また、数か所には採光のための天窓のような円形の窓が取り付けられています。2基の望遠鏡は下部が丸い壺のような形になっていて、南北に設置されたレールの上を移動して観測できるようになっています。外側の見た目は、「屋内の形状がそのまま反映された結果」だと設計者は言っていて、屋内の床は平らですが、壁は湾曲していてそのまま天井に続き、設計者の考えによる人の動きが自然になる形となっています。5つある部屋は、当初は研究室と制御室、会議室、研究者の住居として使われていましたが、現在は事務室として使われています。各部屋の壁や天井が湾曲しているために、それに応じた家具や、調度品が取り付けられています。例えば壁に沿って半円形になっている作業机や、書棚も棚は水平ですが、横から見ると壁に沿った曲線を描いています。

「コソル天文台」のまとめ

 

「コソル天文台」は、外観も屋内も床部分以外は水平、垂直なところはありません。そのような建物ですが、シンプルな印象もあります。設計者の理念に沿った1番自然な形が、無駄を無くしているからではないでしょうか。現在は「コソル天文台」と周辺の天文台は、全てコート・ダジュール天文台に含まれ、国内でも大規模な天文台になっています。夏の間はガイドが案内するツアーがありますが、通常は関係者以外立ち入り禁止となっています。

 

 

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