下瀬美術館(Simose-Museum)

目次

「下瀬美術館」のご紹介

 

日本国内は元より、世界中に多種多様な美術館があります。総合的に芸術作品を展示している所から、細かく分類された内の1つに特化された美術館など、収蔵品の内容は多岐にわたります。そして、美術館の建物も内容に見合った外観のものから、建物そのものが芸術品になりえる美術館もたくさん存在しています。瀬戸内の海辺に建てられた美術館は、完成した1年後に世界で最も優れた建築物の美術館に選ばれました。

「下瀬美術館」の設計者

 

「下瀬美術館」を手掛けたのは、建築家として被災地支援などで活躍する坂 茂(ばん しげる)です。1957年に東京で生まれ、小学生の頃から12人で団結して競うラグビーに興味を持ち、高校生では花園ラグビー場で試合をした経験があります。中学生の時に建築に大きな関心を持つようになって、住宅の模型を課題で提出しています。高校生の頃に建築雑誌で見かけたチェコ系アメリカ人建築家に惹かれ、彼が教鞭を執る学校へ入学することを目指して、高校卒業後に単身でアメリカへ渡りました。ニューヨークにあるその大学は、創立者の理念から学費は全て免除されていました。加えて教育の質がとても高かったことから入学希望者も多く、合格率が非常に低い大学です。在学中に、当時ポストモダン建築のけん引役を担っていた大分出身の建築家、磯崎新の事務所に在籍していた期間があります。建築士の資格を取得して大学を卒業し、帰国後の1985年に独立して自らの事務所を開設しています。東京に事務所を開いた後、建築家として活動を行うと共にいくつかの大学で教鞭を執っています。その後、20世紀の終わりにニューヨークにも事務所を開設しています。また、フランスの巨匠が手掛けた芸術文化センターの分館建設のために行われた建築設計競技会で優勝を勝ち取ったことをきっかけとして、2004年にはパリにも事務所を置きました。彼の事務所は、通常の建物設計だけでなく、被災地での仮設住宅など多岐にわたる現場で、建築家としてできることも行っています。

「下瀬美術館」の所在地

 

「下瀬美術館」は瀬戸内海に面した広島県大竹市に建設されました。大竹市は、隣県の山口県と県境を接する、県で1番西の端にある自治体です。平地の少ない地形で、いくつかの飛び地が隣接する廿日市市の中にあります。また、瀬戸内海に浮かぶ有人島の阿田多島と、その隣にあり橋で往来できる無人島の猪子島と南に7km離れた甲島があります。甲島(かぶとしま)は、江戸時代に安芸国と周防国の境であったことから、無人島ではありますが、大竹市と岩国市の境が現在も存在しています。沿岸部は、県境にある小瀬川を挟んで、山口県和木町と岩国市と共に瀬戸内工業地帯の一角を構成しています。山間部では、小瀬川の清流と原料となるコウゾの栽培に適した地があったことから、江戸時代に和紙の製造を行っていました。和紙の製造は藩を上げての産業として、多くの人が従事していました。現在は、保存会がコウゾの栽培から和紙製造を守っていて特産品の1つになっています。地元の材料のみを使うこだわりと、伝統を守る技術で他にない和紙が作られています。添加物を使わない純粋な和紙の柔らかな風合いは愛好家も多く、障子紙や文具、神楽の面などが作成されています。中でも、手書きの鯉のぼりは全国でも稀な品となっています。

「下瀬美術館」の特徴

 

「下瀬美術館」は2023年に開館した私設美術館です。広島市に本社を置く、建設関連企業の創業者が集めた美術品を後継者が館長となり、保存、調査と一般に公開するために建設されました。この施設は、玄関にあたるエントランス棟の鏡のような金属質の輝きと、可動式の8つの展示室の柔らかな色合いが、対照的でありながら互いに引き立て合っています。建設にあたっては、美術館という日常とは違う時間を過ごせる施設であることを考慮すると、敷地の陸側にはある2つの大型店舗が無粋に見えました。その無機質な壁を隠すために設計者が考えたのは、大きな鏡でした。エントランス棟と可動式展示室の間に長さ約190mで高さが8m以上ある壁が作られています。この壁にはミラーガラスが使われていて、背後の景色を消し、前面の瀬戸内の海や対岸に浮かぶ宮島とも呼ばれる厳島の風景を映し出す2つの効果があります。可動式の展示室は8つあり、柔らかな色合いのガラス壁で作られた箱のように見えます。1辺が10mあるこれらの箱は、造船の技術を応用した台船に乗せられていて水盤に浮かべられています。水に浮かべたのは、水の量を増やすことによって大きな重機を使用しなくてもたやすく移動できるようにすることが可能となっています。加えて、色とりどりの展示室が水に映る姿が見える効果もあります。夜間では、屋内照明の光がガラス壁を通して、展示室が水辺に浮かび上がるように見えます。エントランス棟の屋内は広い空間になっていて、ヒノキの集成材で作られた大きく枝を張っている木のように見える柱が支えています。

「下瀬美術館」のまとめ

 

 

ユネスコは、2015年から優れた建築物に対してヴェルサイユ賞を授与しています。そして、2024年からは博物館や美術館を対象としたミュージアム部門を新設しました。その栄えある第一回目の賞を受賞したのが「下瀬美術館」です。施設の海側には、フランスのアールヌーボーを代表する、ガラス作家のエミール・ガレが好んだ植物が植えられた「エミール・ガレの庭」も作られています。風景を取り込み、思いもよらない方法で不利な部分を克服したこの美術館は、瀬戸内の海辺に掲げられた1枚の絵となっているのではないでしょうか。

 

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次