ヘリステージ（Heli-stage）

「ヘリステージ」のご紹介

長い歴史のある国の都市に近未来的な建築物が建っています。複合商業施設の中の一棟「ヘリステージ」は、途中で切り取られたようなちょっと不思議な感じのする建物です。地域の特産品である繊維業に敬意を払ったデザインの「ヘリステージ」は、夜間になると伝統的な模様が浮かび上がるようにもなっています。

「ヘリステージ」の設計者

「ヘリステージ」を含む服飾全般の複合商業施設「チャイナ　テキスタイル　センター（CTC）」を手掛けたのは、中国の建築事務所「ATAH（アタ）」です。2人の建築家によって、2013年に開設された比較的若い事務所ですが、公共の施設や、大型の商業施設など大きな企画を手掛けています。長江の流域にある古い都市の南京で生まれたグアン・シューはアメリカの大学で建築を学び、ロサンゼルスや上海の建築事務所で経験を積みました。リラス・ワンは首都、北京の出身で、同じくアメリカの大学で建築を学び、卒業後にはアメリカの大手建築事務所や都市計画を手掛ける会社で働いていました。「ATAH」とはアメリカの南西部に住む先住民のナバホ族の言葉で、「関与（A-tah）」を表しています。彼らは、建築やデザインがファッションなどだけでなく、多様な分野に影響を与え合い、相互に作用する事を意識して「ATAH」を創設したと言っています。この事務所は、上海とロサンゼルスにオフィスを置き、現代の様々な問題を建築やデザインでいかに解決できるかを模索しています。

「ヘリステージ」の所在地

日本でも良く知られている中国のお酒、紹興酒を生産している中華人民共和国の浙江省紹興市（シャオシン市）に「ヘリステージ」が建設されています。中国の東部に位置していて、東シナ海に面する杭州湾に市の一部が接しています。緯度は奄美大島よりやや北になり、四季はありますが冬季に雪が降ることはありません。この街も国と同じく古い歴史があり、紀元前8世紀頃の中国春秋時代には都に制定されたこともあります。昔は越州と呼ばれていましたが、12世紀頃この地域の中心として地方自治の役所が置かれ、この地方を納めることになり、その当時の元号に因んで「紹興」と名称が変えられました。地形は山や丘陵地が多く、少ない平地に市街地が広がっています。街の東から北側を曹娥江（そうがこう）と言う川が流れています。この川は、浙江省の名称の元ともなっている銭塘江（せんとうこう）の最大の支流で、合流して間もなく杭州湾に注いでいます。市街地の中には大小の湖や自然の水路があり、街が大きくなるに従って湖が干拓されたり、運河が建設されたりしました。水路や運河は市内の交通にも利用されていて、「東洋のベニス」とも呼ばれ、観光客の人気も高くなっています。特産品の紹興酒は、もち米と街にある鑑湖（かんこ）の湧水が使われています。

 

「ヘリステージ」の特徴

透明な円筒を途中でねじって少し引き延ばしたような見た目の建物が「ヘリステージ」です。CTCの中心的な建物で玄関に相当する位置にあって、とてもスタイリッシュな外観をしています。一見すると円筒形の建物が途中で途切れてしまっているように見える不思議な印象があります。円筒の中心には少し太い円柱があり、中には空調などの設備とエレベーターが設置されています。中心の核になる円柱からは骨組みが水平に放射状に伸びています。それらの骨組みは床になり、外壁の円筒を支えています。一つの大きな螺旋階段になっているような構造で、来訪者はその広い螺旋階段でいつの間にか上階層に導かれるようになっています。また、途中の切り込みによって屋内と屋外の境界が曖昧になり、垂直も水平も明確さがなくなるようになっています。その曖昧になるデザイン理念を強調するように外壁はガラスで覆われ、幾何学的な模様にガラスが区切られています。基本的に三角形をした二重ガラスが、建物に対して水平と斜めに伸びた鋼の骨組みに取り付けられています。広い螺旋階段の天井に埋め込まれた照明は、階段と連動しているように大きな弧を描いていて、水面に広がる水紋のようです。光は床にも投影されていて連続した美しい弧が更に螺旋を強調しています。

「ヘリステージ」のまとめ

人類が文明を築き始めたころから服装は文化を表しています。現代は機械が糸を紡ぎ、その糸で布地が生産されていますが、昔は全て人の手で糸を紡ぎ、機織りをしていました。その過程で様々な紋様が生み出されました。「ヘリステージ」の外観は、この複合施設の元である服飾繊維業界を大きく意識してデザインされています。連続する幾何学模様は布地を織る時の模様を表し、螺旋を内包する建物はこの業界のさらなる可能性を表現しているように見えます。「ヘリステージ」は、その未来を示していると言っても過言ではない建物ではないでしょうか。