相似象シリーズ(全3回)
第1回 建物を見る前に、大地を見る
第2回 見えない「流れ」を読む(本記事)
第3回 大地と戦わない建築
一本の橋が落ちる。
その先の地域に、救急車も物資も届かなくなる。
壊れたのは橋一本でも、止まったのは地域全体の「流れ」です。
第1回では、山から丘、森、住宅、人へと続く「破壊の連鎖」を見てきました。相似象とは、形の相似ではなく現象の相似を見る考え方でした。
第2回では、その視点を目に見えにくいものへ広げます。風や水、人や車の動きといった空間の「流れ」。そして、足元のさらに下、地下から地上へ伝わるものです。
この記事について
本記事で紹介する「ストリームリレーション」「逆相似象」「ジオパシックストレス」などは、独自の環境観・理論の中で用いられている概念であり、一般的な建築学・防災工学・物理学の標準用語や手法とそのまま同一のものではありません。磁場や地球の自転、地下水のように観測・測定できる現象と、そこから空間の意味を読み取る考え方とを区別しながら紹介します。
1 空間には、さまざまな「流れ」がある
相似象という考え方を広げていくと、山や川といった自然環境だけではなく、都市空間、建築空間、さらに室内空間へと視線が移っていきます。
そこで重要になるのが「流線」です。
山から水が流れ、風が通り、人が移動する。道路には車が走り、橋は川や谷を越え、都市の中では人や物が絶えず移動しています。
ここでいう「流線」は、建物の中の廊下や、人が歩く動線だけを意味するものではありません。自然の流れから、道路、橋、車、人、そして目的地までを、一つにつながった空間として考える。そこに、この流線の特徴があります。

さまざまな「流れ」を空間計画へ結びつけて考えた「ストリームリレーション」の概念図。
ストリームリレーションとは
この空間論では、さまざまな「流れ」をストリームとして表しています。

基本的なストリームの種類を整理した概念図。磁性、太陽、地球自転軸などから捉えたストリームを、大地の流線、導線、空間の流線へ展開している。
図の上部には、基本的なストリームとして、磁性による「マグネティックストリーム」、太陽の「ライトサイドストリーム」、地球自転軸による「グッドストリーム」と「バッドストリーム」が示されています。
さらに、螺旋状の「グノーモン」、陰と陽の「ヘリプロテス」、幾何学的な「ジオメトリック相似象」などへ展開し、右側では「大地の流線計画」「ライトサイド導線計画」「地門から天門へのグッドライン流線計画」「空間の流線計画」として整理されています。
大地に存在する流れを読み、それを人間がつくる建築や都市の流れへどのようにつなげていくのか。それが「ストリームリレーション」の基本的な考え方です。
実際の建築設計でも、太陽の方向、風、水の流れ、地形、人の動線など、敷地を通るさまざまな「流れ」を読むことは重要です。屋根に落ちた雨水は敷地へ流れ、敷地の水は道路や側溝へ向かい、地域に降った雨は谷や河川へ集まります。建物の向きは太陽や風と、擁壁は地形や土圧と、基礎は地盤と関係しています。
大きな大地から都市へ。都市から敷地へ。敷地から建築へ。建築から室内へ。
規模は変わっても、空間同士は完全に切り離されているわけではありません。
2 自然から人間の動きまで、六つの段階で考える
自然と人間の空間に生まれる流れは、次のような段階に分けて考えています。
- 自然界的(地政学的空間)流線
地形や水、風など、自然環境そのものが持つ大きな流れ。 - 自然界との共生・融合を考えた空間構成
道路や橋など、人間がつくる空間を自然の流れの中にどのように組み込むかを考える。 - 導線計画
自然と人工空間の関係を踏まえ、人や物を目的地へ導くための基本的な流れを計画する。 - 動線計画(A)
大型車両など、目的別の大きな移動を考える。 - 動線計画(B)
中小型車両など、それぞれの目的に応じた移動を考える。 - 地歩ポイント――動線の目的到達点
人や車が最終的にどこへ到達するのか。その目的地と周辺空間、人々の流れまで含めて考える。
このように考えると、自然環境と都市、道路と建築、人と車の動きは、それぞれ独立したものではなくなります。
規模の異なる「流れ」を連続したものとして見ることが、この流線という考え方の中心にあります。
3 災害が起きたとき、流線はどうなるのか
この考え方が特に重要になるのが、災害が発生したときです。
道路が寸断されれば、人の移動だけでなく、救援や物流にも影響が広がります。橋が使えなくなれば、その先の地域が孤立することもあります。道路や橋の被害は、電気、水道、通信など、周辺の社会基盤にも影響を及ぼす場合があります。
一つの場所で発生した破壊が別の場所の機能を失わせ、その影響がさらに次の場所へ広がる。ここでも、相似象の「破壊の連鎖」が現れます。
だからこそ、災害が起きてから対応するだけではなく、
「ここが失われたら、次に何が起きるのか」
をあらかじめ考えておくことが重要になります。
4 「逆相似象」――起きる前から逆に考える
こうした考え方を「逆相似象」という言葉で説明しています。
起きてしまった現象から原因を振り返るだけではなく、将来起こり得る破壊を仮定し、そこから逆方向に空間や流線を考えていく。
例えば、
- この道路が通れなくなったらどうするか
- この橋が失われたら別の経路はあるか
- この地域が孤立したら、人や物資はどう動くか
と考えていきます。
このような思考は「アブダクションスキル(仮説創造思考)」とも関連づけています。現在ある問題を洗い出し、そこから起こり得る状況について仮説を立て、それを空間計画へ戻していく。KJ法などによって現状の問題を整理することも、そのための一つの方法として位置づけられています。
5 自然と人間の「共生と融合」
流線の考え方が最後に行き着くのが、自然と人間との関係です。
地球の大地は、およそ45億年という長い時間の中で形成されてきました。人間はその大地の上で、山を削り、川に橋を架け、道路を通し、都市や建築物をつくってきました。
しかし、人間がつくる空間も、自然から完全に切り離されて存在することはできません。
この関係を「自然界の意志と人間界の意志の共生と融合」という言葉で表現しています。
「自然界にも意志がある」という表現は、自然科学上の事実を意味するものではありません。自然を人間が自由に支配できる対象として見るのではなく、長い時間をかけて形成された地形や水、風などの働きを尊重するための比喩として捉えると分かりやすいでしょう。
自然がつくった大きな空間の中に、人間がつくる空間をどう置くのか。自然の流れと人間の流れを、どのようにつないでいくのか。
それを考えることが、「共生と融合」につながっています。
6 ジオパシックストレス――地下から地上へ伝わるもの
ここまでは、地上の流れを見てきました。相似象には、もう一つ、足元のさらに下を見る領域があります。それが「ジオパシックストレス」です。
一般的な相似象が、地上における上下方向や水平方向への影響の連鎖を見るのに対して、ジオパシックストレスは、地中・地下という「アンダーグランド」の領域から地上へ及ぶ影響を考えようとするものです。
ここでは大きく、次の三つの領域に分けて考えます。
- 地震に関係するもの――プレート、活断層など
- 地下水に関係するもの――地下水脈など
- 磁気・磁場に関係するもの――磁力線、磁場、「マグネティックチー」など

「3チー空間」の概念図。地下のアンダーグランド、地表のグランド、上空の空間を一つの連続した領域として捉え、地下水脈、磁場、電磁波などと人間との関係を表している。
第1回で紹介した「スカイチー」「グランドチー」「マグネティックチー」の三つの領域が、ここで再びつながります。図では、地下から地表、人間が生活する空間、さらに上空までが一つの構造として描かれています。重要なのは、地下の現象が地表で終わらず、地上の建築や人間の空間へリレーションしていくという考え方です。
地下にあるものは、地上と無関係ではない
建築物は地表に建っているように見えます。しかし、その下には地盤があり、岩盤があり、地下水が流れています。
地盤の性質、地下水位、断層などは、建築物の基礎や安全性を考える上でも重要な条件です。
ジオパシックストレスという考え方では、さらに地下水脈や磁場などを含め、地下に存在するさまざまな状態が地上へ影響を伝える可能性を考えます。
「可視の相似象」と「不可視の相似象」
相似象は、もう一つの方法でも分けることができます。目で見ることのできる現象を「可視の相似象」、直接目で見ることのできない現象を「不可視の相似象」とする考え方です。
山、川、谷、道路、建築物などは、その形や位置を目で確認することができます。一方、電磁波、磁場、放射線、気圧などは、それ自体を目で見ることはできません。これらの中には、測定機器によって存在や強さを測定できるものがあります。
ジオパシックストレスでは、こうした目に見えない作用についても、空間を考える一つの要素として捉えます。
地下水脈や磁場と人間――科学的知見との境界
ジオパシックストレスの考え方では、地下水脈や磁場などが重なる場所と、人間の身体、思考、行動との関係を重視します。そのため、学校、幼稚園、病院、司法施設など、多くの人が長時間過ごす建築物については、建設前に地下環境を十分に調べることが重要であるとされます。
ここでは、ジオパシックストレスとして語られてきた考え方と、現在の科学的知見を分けて見る必要があります。
地盤、地下水、断層、地中の有害物質などを建築計画の前に調査することには、地盤工学、防災、環境衛生上の明確な意味があります。
一方、地下水脈や自然の磁場が、人間の思考や行動に特定の障害を引き起こすという因果関係については、現在の一般的な建築科学や医学で確立されたものではありません。
したがって、ここでは科学的事実として断定するのではなく、地下と地上、人間と建築との関係を考える一つの空間論として紹介します。
ジオパシックストレスの位置づけ
ジオパシックストレスは、ヨーロッパでもダウジングなどと関連づけて語られてきた概念です。ただし、その存在や健康影響が科学的に確立されたわけではなく、建築許可の一般的な法的要件として扱うこともできません。建築の安全性を判断する際は、地盤調査や地下水調査など、検証可能な方法を基本とします。
見えない地下を見てから建てる
私たちは建築を見るとき、どうしても地上に現れた形を見ます。
しかし建築物の下には、長い時間をかけて形成された地層があります。そこには岩盤があり、地下水が流れ、場所によって地質や地盤条件も異なります。
見えている建築だけではなく、その建築を支えている「見えない大地」を見る。
これは、石から大地へ、大地から建築へと考えてきた「いしらべ」にとっても重要な視点です。
7 ジオメトリック相似象――形の相似から現象の相似へ
地上の流れと、地下の見えない作用。これらを都市や建築の計画へまとめ上げようとするのが「ジオメトリック相似象」です。

「形の相似」と「現象の相似」を、人間環境や都市・建築の空間計画へ展開した「ジオメトリック相似象」の概念図。
図では「相似象」を、形の相似と現象の相似という二つの方向から捉えています。
幾何学的な形の破壊だけではなく、その破壊によって起こる現象まで視野に入れ、それを都市空間、建築空間、室内空間へとつなげています。
こうした環境の関係を読みながら計画する方法を、図では「ジオマンシープランニング」あるいは「ジオ設計」と表現しています。「ジオマンシー」という言葉には歴史的に複数の意味がありますが、ここでは大地や自然環境と人間の空間との関係を読み、それを都市や建築の計画へつなげようとする考え方として使われています。
つまり、相似象は自然を眺めるだけの考え方ではありません。
自然の中に都市や建築をどう置くのか。
破壊につながる関係をどう避け、人間の空間をどう守るのか。
そこまで考えようとしている点に、この理論の建築的な特徴があります。
8 「似ている」と「同じ」は違う
相似象を考える上で、特に注意しておきたいことがあります。
二つの現象が似て見えることと、その原因が同じであることは別です。
小さな水の流れと巨大な河川。砂山の崩壊と実際の地すべり。樹木の枝分かれと河川網。
そこに形や構造の類似を見ることはできます。しかし、形が似ているというだけで、同じ物理法則や同じ原因によって生じていると結論づけることはできません。
だからこそ相似象は、答えそのものとしてではなく、
「なぜ似た形や現象が現れるのか」
「その前後には何があるのか」
「一つの変化が、その周囲とどのようにつながっているのか」
と考えるための一つの視点として見ることができます。
次回:大地と戦わない建築
流れを読み、見えない地下を読む。では、その考え方を実際の空間に重ねると、何が見えてくるのでしょうか。
最終回では、中南米の大学キャンパスに置かれたストーンサークルと、メキシコ・イスタパの太平洋岸に建つリカルド・レゴレッタの巨大リゾート、その中央に開けられた「ムーンライトゲート(月光門)」を訪ねます。
→ 第3回 大地と戦わない建築――ストーンサークルとイスタパの「月光門」
相似象シリーズ(全3回)
第1回 建物を見る前に、大地を見る
第2回 見えない「流れ」を読む(本記事)
第3回 大地と戦わない建築