相似象① 建物を見る前に、大地を見る ― 山・川・人の暮らし

相似象シリーズ(全3回)

第1回 建物を見る前に、大地を見る(本記事)
第2回 見えない「流れ」を読む
第3回 大地と戦わない建築

山が崩れる。

川が氾濫する。

海岸が削られる。

地震によって大地が動き、建物が被害を受ける。

私たちは、こうした現象を「災害」という言葉で捉えます。

しかし、その土地をもっと大きな視点から見てみると、山には山の形があり、川には川の流れがあり、谷には水の集まる方向があります。

そして人間は、その大地の上に道路をつくり、山を削り、川の流れを変え、都市や建物をつくってきました。

自然と人間を別々に見るのではなく、天・大地・水・人・建築を一つのつながりとして見る。

その一つの考え方が、「相似象(そうじしょう)」です。

相似象という視点から自然の形と変化を見ていくと、山や川だけでなく、その先にある都市や建築、さらに人間の暮らしまでが、一つの大きな環境の中に存在していることが見えてきます。

全3回のシリーズの第1回では、相似象の基本となる「破壊の連鎖」と、「建物を見る前に、大地を見る」という視点をたどります。

空・地表・地下を一つの環境として見る

天・地・人と空間の概念図

空間・地表・地下を一体の関係として捉えた概念図。人間と建築を、その周囲に広がる環境の中から考える。

この図では、人間が暮らす空間を、地表だけではなく、その上に広がる空間と地下まで含めて捉えています。

そこで使われているのが、「スカイチー」「グランドチー」「マグネティックチー」という言葉です。「チー(Chi)」は「気(氣)」に由来する表現です。

スカイチー(Sky Chi)は、地表より上に広がる空間、つまり「天」から地上へ関わる領域を表す概念です。太陽や大気など、人間や建築を上から取り巻く環境を含むものとして描かれています。

グランドチー(Ground Chi)は、私たちが立ち、建築物が建てられている「大地」側の領域を表します。地形や地盤、水など、大地と人間との関係を見るための概念です。

マグネティックチー(Magnetic Chi)は、大地や磁気に関係する領域です。地球そのものが持つ磁気的な環境を、空間を考える一つの要素として捉えています。

さらに地下には、アンダーグランドや地下水脈が描かれています。

つまり、この図が示そうとしているのは、建築を地表に置かれた一つの物体として見るのではなく、「空・地表・地下」という三次元の環境の中に存在するものとして考えるという見方です。

この記事について
本記事で紹介する「相似象」や「スカイチー」「グランドチー」「マグネティックチー」などは、独自の環境観・理論に基づく概念であり、現代の気象学・地質学・物理学の標準的な用語ではありません。地形、水の流れ、日射、風、地質など現代科学によって測定・検証される現象とは区別しながら、自然と建築の関係を考える一つの視点として紹介します。


1 「相似形」と「相似象」は何が違うのか

「相似」と聞くと、多くの人は学校で習った幾何学の「相似形」を思い浮かべるでしょう。

大きさが違っていても、互いによく似た形をしている。これが一般的な「相似形」です。

しかし、ここでいう「相似象」は、単に形が似ているという意味ではありません。

相似形は「形」の相似。

相似象は「現象」の相似。

形だけではなく、ある場所で起きた変化が周囲の環境とどのように関係し、次の現象へつながっていくのかを見る考え方です。

特に注目するのが、自然環境や人間環境における「破壊の連鎖」です。

相似象と破壊の連鎖を示す概念図

「相似形」と「相似象」を区別し、山、丘、森・林、住宅、人を連続する環境として捉えた概念図。

図では、山 → 丘 → 森・林 → 住 → 人という関係が描かれています。

山だけを見るのではなく、その先にある丘、森、住宅、都市、そして人間までを見る。

一つの場所で起きる変化を、その場所だけで終わるものとして考えないところに「相似象」の特徴があります。


2 山から丘へ、森へ、そして人の暮らしへ

山の下には丘があり、その先には森や林があり、さらに住宅や都市があり、そこに人間が暮らしています。

自然環境と人間環境は、途中で完全に切れているわけではありません。

例えば、大雨によって山の斜面が崩れれば、その影響が斜面の下へ及ぶことがあります。河川の上流で大量の雨が降れば、下流の水位に影響します。森林や土地利用が変化すれば、水の流れ方や地表の状態が変わる場合もあります。

相似象では、こうした環境の連続性を「破壊のリレーション」という視点から捉えています。

相似象と破壊のリレーション

山から丘、森、住宅、人へと続く環境の関係を「破壊のリレーション」として表した概念図。

図には複数の「破壊ポイント」が描かれています。一つの破壊を単独の出来事として見るのではなく、その前後にある自然や人間環境との関係まで見るという考え方です。

ただし、これは「山の一か所が壊れれば、必ず順番にすべてが壊れる」という法則を意味するものではありません。実際の災害は、地質、地形、地下水、降雨量、植生、斜面勾配、土地利用、構造物など、多くの条件によって変わります。

ここから読み取りたいのは、一つの場所だけを見るのではなく、その前後にある環境との関係を見るという視点です。


3 自然の「破壊」は、形を変える働きでもある

私たちは山崩れや洪水を見ると、「自然が壊れた」と考えます。

しかし地球の長い時間から見れば、山は隆起し、風化し、削られます。岩石は砕け、土砂は水によって運ばれます。川は大地を侵食し、海岸線も波によって形を変えていきます。

自然界では、「つくられること」と「壊されること」が絶えず繰り返されています。

人間にとって問題になるのは、その変化する場所と生活圏が重なったときです。

山の斜面が崩れても、その先に何もなければ地形変化の一つです。しかし、その下に住宅や道路があれば、人命や暮らしに関わる災害になります。

自然の変化と人間の空間は、別々のものではないのです。


4 高さ10メートルの裏山が崩れたら

例えば住宅の裏に、高さ10メートルほどの斜面があるとします。

「もし崩れたら、土砂はどこまで来るのだろう」

これは建築や土地利用を考える上で重要な問題です。

ただし、「高さ10メートルだから水平距離30メートルまで届く」というように、高さの何倍という数字だけで実際の到達距離を一律に決めることはできません。斜面の角度、地質、崩壊する土量、地下水、水分量、植生、地表面の状態、途中にある構造物などによって結果は大きく変わります。

一方で、斜面の高さと水平距離、傾斜角度、崩壊した物質の広がりを「形」として考えることは、危険を理解する一つの入口になります。

地形の形を見る。そして、その先に何があるのかを見る。

そこから建築や人間の暮らしとの関係を考えていきます。


5 水は人間の境界線を知らない

大雨が降ったとき、水は土地の所有権や行政区域を見て流れるわけではありません。

水は基本的に、高いところから低いところへ流れます。小さな流れが集まり、谷へ入り、河川へ向かいます。

現在は住宅地になっていても、かつて谷だった場所があります。暗渠になった川や水路もあります。昔は湿地だった土地が、市街地になっている場合もあります。

だから土地を見るときには、現在の街並みだけではなく、古地図、地形図、標高、地質、過去の災害記録などを重ねて見ることが重要になります。

建物を見る前に、大地を見る。

相似象を建築へつなげて考えるとき、この視点は非常に重要です。


6 気候風土・水土・風水

土地と建築との関係を考えるとき、「気候風土」「水土」「風水」という異なる視点があります。

気候風土は、気温、雨、雪、風、湿度、日射など、その地域を特徴づける気候と土地の条件です。

水土は、水と大地との関係です。川、地下水、湧水、湿地、土壌、地形などは、人間の生活や建築を支える重要な基盤です。

そして歴史的な風水では、山、水、地形、方位などを読みながら、人間が暮らす場所を考えてきました。

これらは同じ学問ではありません。現代科学によって測定・検証されるものと、歴史的な思想や環境観として形成されてきたものは区別して考える必要があります。

四大気と回帰の概念図

スカイチー、グランドチー、マグネティックチー、地下水脈などを一つの環境として捉えた「四大気・回帰」の概念図。

四大気と「回帰」という考え方

この図では、空から大地、さらに地下へと続く環境を、互いに関係するものとして表しています。

上空にはスカイチー、地表にはグランドチー、大地にはマグネティックチー、さらに地下には地下水脈などが描かれ、その周囲を「回帰」の矢印が取り巻いています。

重要なのは、上と下を別々に見るのではなく、天から大地へ、大地から地下へ、そして周囲の空間へという循環的な関係として環境を見ようとしている点です。

建築もその途中に存在します。人間もまた、その環境の外側にいるのではなく、その中で暮らしている存在として描かれています。


7 「天・地・人」という世界の見方

東アジアには古くから「天・地・人」という世界の捉え方があります。

天。地。そして、その間で暮らす人。

人間だけを自然から切り離すのではなく、天と地との間に人間を置いて世界を見る考え方です。

天・地・人と天地一体の概念図

「天・地・人」「天地一体」「天の写しは大地」という関係を表した概念図。

「天」を自然環境という視点から見れば、太陽、雨、風、気温など、人間が自由に支配することのできない大きな条件があります。

「地」には、山、川、谷、地質、土、地下水があります。

そして「人」は、その間に道路をつくり、都市をつくり、建物を建てて暮らします。

さらに、この「天」と「地」の関係を風水という視点から表したものが次の図です。

風水と天地一体の概念図

「天の写し―大地」「天地一体」と風水との関係を表した概念図。

「天の写しは大地」という表現は、自然科学上の公式として読むのではなく、人間を自然から切り離さず、天・大地・人を一体の関係として見る環境観として捉えると分かりやすくなります。


8 建築は自然の外側には存在しない

現代の都市にいると、自然と建築は別のもののように見えます。

道路は舗装され、地面はコンクリートで覆われ、川は護岸で囲まれ、雨水は地下の排水管へ流れていきます。

しかし、大雨が降れば水は低い場所へ集まります。地震が起きれば地盤の違いが現れます。強い風が吹けば、建物の形や配置によって風の流れが変わります。

どれほど建築技術が発達しても、建物を自然条件から完全に切り離すことはできません。

建築は必ず、どこかの大地の上につくられています。


9 災害を見ることは、大地を見ること

災害が起きると、私たちは被害を受けた建物を見ます。

しかし、その建物だけを見ても分からないことがあります。

その後ろには山があります。下には地盤があります。近くには川があります。空からは雨が降ります。地下には水が流れている場合もあります。

さらに過去へさかのぼれば、その土地が昔は川だった、谷だった、湿地だったということもあります。

建築を理解するためには、建物の外へ視線を広げなければならないことがあります。

自然災害を考えることは、建物だけを見ることではありません。

その建物が立っている「大地」を見ることでもあるのです。


次回:見えない「流れ」を読む

山から丘へ、森へ、人の暮らしへ。第1回では、目に見える地形の上で起きる「破壊の連鎖」を見てきました。

しかし、空間を通り抜けているのは土砂や水だけではありません。風が通り、人が動き、車が走り、地下では水が流れています。

第2回では、こうした目に見えにくい「流れ」を読む流線と逆相似象、そして地下から地上への影響を考えるジオパシックストレスを取り上げます。

→ 第2回 見えない「流れ」を読む――流線・逆相似象・ジオパシックストレス


相似象シリーズ(全3回)

第1回 建物を見る前に、大地を見る(本記事)
第2回 見えない「流れ」を読む
第3回 大地と戦わない建築