モルドバ創造産業センター(ARTCOR – Center for Creative Industries)

「モルドバ創造産業センター」のご紹介

 

音楽や美術、演劇などの芸術は人が生きていく上で必ず必要な事柄ではありません。しかし、数千年前にはすでに楽曲が作られ、洞窟には絵が描かれ、神様に捧げるための神事が変化したと推測される演劇も古代より演じられてきました。このような歴史を振り返ると、人々が潤いのある生活を送るためには芸術は必要な分野と言えるのではないでしょうか。東ヨーロッパの国に建つ「モルドバ創造産業センター」は、生活を豊かにするために芸術を学ぶ学生を支援する大きな役目を持つ小さな建物です。

「モルドバ創造産業センター」の設計者

 

「モルドバ創造産業センター」は、モルドバの建築家、マキシム・カルジャックです。1980年に生まれた彼は、モルドバの工科大学で建築を学び、首都のキシナウに本拠地を置く、カルジャック・アーキテクツを率いています。彼は最初から建築家を目指していたわけではありません。哲学と宗教の歴史を学ぶためにロシアの首都モスクワにいた頃、学費を稼ぐために、地下での力仕事をしていました。建物の地下で長時間働いて行くうちに、建物内部の構造に興味を持つようになり、建築を学ぼうと決め、故郷のモルドバへ戻りました。建築を学び、建築家として活動するようになって、都市の構造やモルドバの建物のあり方に疑問を持つようになりました。四角い建物や無駄な空間を嫌い、人々が求める事柄に基づいた空間を作り出すことに注力しています。多くの国で芸術作品のような建築物が建設されていますが、モルドバでは建築は単に建物を作る事とみなされています。彼にとっての建築は芸術であり、芸術は感情でもあると語っています。現在は東ヨーロッパの国々で活躍していて、いくつかのイベントで講演も行い、彼が運営する事務所は、個性的な考えを持つ多様な分野の専門知識を持つスタッフと共にモルドバの新しい建築をけん引する事務所に成長しています。

「モルドバ創造産業センター」の所在地

 

「モルドバ創造産業センター」は、東欧の国モルドバ共和国の首都キシナウに建設されました。モルドバはウクライナとルーマニアに囲まれた内陸の国で、わずかな海峡で地中海と繋がる黒海に1番近い所で2kmあります。内陸ではありますが、山岳地帯のない比較的平坦な地形で、丘陵地帯や小高い丘が点在しています。肥沃な土地が広がることから国の主な産業は農業で、国土の約半分が耕作地になっていて、輸出による国の収入のおよそ半分が農産物とその加工品です。国の北部は穀物や野菜の栽培が行われ、南部ではワイン醸造のためのブドウが栽培されています。首都のキシナウは、国の中央に広がる中央モルドビア高原に位置しています。国で最高地点のバラネシュティ丘陵は街の西約60kmにありますが、最高地点と言っても標高は500mに達しません。街の名前は15世紀に当時のモルダビア公国の街として最初の記録があります。地名の語源にはいくつかの説がありますが、古いルーマニア語で「小さな泉」を表していると言う説があり、泉の周辺から街が広がったと言われています。日本では以前、ロシア語の発音で街の名前を表記していましたが、モルドバからの要請で公用語であるルーマニアの発音であるキシナウに変更されたのが2022年の事です。この街には「白い街」と言う別名があり、古い町並みは薄い色合いの大理石や石灰岩で作られた建物が多く、その風景から名付けられたようです。

「モルドバ創造産業センター」の特徴

 

2019年に完成した「モルドバ創造産業センター」は、芸術大学の中の狭い敷地に建設されました。不用品が置かれた古い倉庫と、廃棄物の置き場だったバレーコート2面分ほどの狭い敷地を整理して学生達の支援ができる建物が作られました。敷地の狭さの他に、近くにある古い建物群との調和も求められ、いくつかの課題がありました。2階建ての建物はコンクリートで作られ、屋上には小さな庭も作られています。建物で最初に目につくのは、階段です。細長い建物の半分は屋外の階段になっていて、階段の途中に2階の入り口があり、そのまま上れば屋上庭園に行けます。階段の段差は2種類作られています。屋内の階段も同様ですが、大きい段差のある方は着色したコンクリートで作られています。設計者は素材をそのまま使うことが望ましいと考え、ほとんどのコンクリートは着色せずにそのまま使われています。外壁には耐候性のあるコルテン鋼が使用されています。設計者が時間や年月と共に変化する、成長する素材と言っているコルテン鋼は、あらかじめ特殊な錆を浮かせた鋼材で、赤茶色のサビ色をしています。直線的なわずかな隙間が作られていて、赤錆の色と共に洗練された雰囲気を醸し出しています。屋内も設計者のこだわりがそこかしこにあります。天井は。3角形の窪みを連ねたケーソン天井と呼ばれる工法が取られています。この天井はデザイン性が上がる上に構造的にも強度が上がります。また、椅子などの調度品の1部も設計者がデザインしています。

 

「モルドバ創造産業センター」のまとめ

 

モルドバでは建築家の地位はまだ低く、「モルドバ創造産業センター」を建設するための細々とした問題を全て設計者が担っていました。敷地にあった倉庫や廃棄物の片付けから、建設するための許可申請や、敷地の所有者との交渉など多くの雑務をこなし、建築家の仕事ではないことまで行っていたようです。しかし、雑然とした場所は、未来の豊かな生活を担う学生たちを支援する素晴らしい場所に生まれ変わることが出来ました。「モルドバ創造産業センター」は、小さいながらもこの国の建築を変える指針となる建物ではないでしょうか。

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