景徳鎮 帝国窯博物館(Jingdezhen Imperial Kiln Museum)

「景徳鎮 帝国窯博物館」のご紹介 

 

 多くの博物館は建物の中に収蔵物を展示しています。しかし、中国にある博物館には敷地も建物も展示物と言える場所があります。「景徳鎮 帝国窯博物館」が建てられている街は数千年の歴史があり、街全体が博物館と言っても差し支えがありません。「景徳鎮 帝国窯博物館」は、明の時代に稼働していた窯の跡地に隣接して建てられました。 

「景徳鎮 帝国窯博物館」の設計者 

 

 「景徳鎮 帝国窯博物館」を手掛けたのは、1962年に北京で生まれた朱平(チューまたは、ジュ ペイ)です。海外留学を前提として20世紀の初めに開校された北京の清華(せいか、チンホワ)大学で建築を学び、その後カルフォルニアの大学に留学しています。2005年にスタジオ朱平を北京に開設して、約20人のスタッフと共に精力的に活動をしています。彼の事務所が手掛けているのは、美術館や博物館などの公共の施設が多く、中国国内のプロジェクトが主ですが、ヨーロッパなど海外のプロジェクトにも参加するようになって近年注目を浴びるようになっています。建築家としては若手と呼ばれる年齢ですが、彼の活躍は世界中に認められ、様々な賞を受賞しています。また、数万人の会員を抱えるアメリカの建築家協会に所属していて、現在は名誉フェローとなっています。他にもアメリカではハーバード大学や、コロンビア大学で教鞭をとっていました。ヨーロッパでの活動は、モダニズムの巨匠と謳われるミース・ファン・デル・ローエ財団が授与する賞の審査員を勤めたこともあります。中国では、国内でもトップクラスの美術系大学である中央美術学院の建築学部、学部長を勤めています。また、母校の清華大学と連携したプロジェクトも活発に行っています。 

「景徳鎮 帝国窯博物館」の所在地 

 

 「景徳鎮 帝国窯博物館」は、中華人民共和国の南東部に位置する江西省の景徳鎮(けいとくちん)市中心部に建設されています。この街は、長江(揚子江)の支流の1つ昌江(しょうこう)の両岸に栄えてきました。古来より陶磁器の製造が盛んで、少なくとも紀元前200年頃から栄えた漢王朝の時代には陶器を作っていたことが明確となっています。14世紀に興った帝国と呼べる明王朝の時代には、皇帝に献上するものや、宮廷で使用される食器などの陶器を製造する特別な窯が作られていました。陶磁器の製造が盛んになった理由は、この地域に陶器を作るための陶土のカオリン石(または、カオリナイト)が多く埋蔵されていたからです。この地域で採掘されるカオリン石は色が白く、そのままでも美しい白磁となりますが、絵付けをしても色が鮮やかに映ることで高い評価を受ける事となりました。近代になるとヨーロッパとの交流も盛んになって、美しい陶磁器はヨーロッパの人々をたちまち魅了しました。陶器の事を英語でchina(チャイナ)とも言いますが、景徳鎮の古い地名が昌江の南を示す昌南(チャンナン)と呼ばれていた事が由来と言われています。それに加えて中国の英語表記もCHINA(チャイナ)となったようです。陶器を通して国際交流の活発なこの街は、日本の佐賀県有田町や愛知県瀬戸市、オランダのデルフト、イタリアのファエンツァなど陶器の町として知られる町と姉妹都市や、友好都市協定を結んでいます。 

 

「景徳鎮 帝国窯博物館」の特徴 

 

 「景徳鎮 帝国窯博物館」は2020年に完成した、この街の陶器製造の歴史と産業を紹介する博物館です。陶器を焼くときに使用される、登り窯のような形をした細長い複数の建物で構成されています。半地下のような作りになっていて、建物を地面に沈めたと言う表現も使われています。トンネルのような形になったのはもう一つ理由があります。この地域の夏は非常に気温が高くなります。極力空調機器を使わないようにするために、日陰と風の通り道を作るためにこのような形が採られました。半地下になっている理由の一つもその為です。風が通りやすくするために建物の南北に開口部があって、西側は、午後の強い日差しを遮るために窓などの開口部は少なくなっています。半分埋もれた形になっているのも、室内温度を下げる役に立っていて、5カ所には中庭も作られています。これらは、水平と垂直方向の風の流れを考慮した結果の形となっています。また、照明も日中は自然光で賄えるように、明り取りの為に天井部分に複数の小さな天窓が取り付けられています。また、床に近い低い場所にも細長い窓が取り付けられています。建物そのものは再利用のレンガとコンクリートで作られています。陶器を焼くための窯は、通常3年で作り替えられていて、その時に出る古いレンガが利用されています。レンガの色が建物の色となっているので、この街の風景によくなじんでいます。 

「景徳鎮 帝国窯博物館」のまとめ 

 

 「景徳鎮 帝国窯博物館」は、明の時代にあった帝国窯(または、皇帝窯)の跡地に隣接して建設されました。5カ所の中庭は、古代中国の哲学や地球物理学に基づいた、五行思想を取り入れた庭となっていて、火、水、木、金、土を意識してそれぞれの庭が作られています。「景徳鎮 帝国窯博物館」は、長い歴史の中で培われた知識や思想と、最新の考え方が融合した建築物と言えるのではないでしょうか。この建物群は上空から見ても特徴的な構図となっているので、この街の新しいランドマークとなっています。 

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