前回、同じオーナーのために、間伐材で「無用の長物」をつくりました。用途も目的もなく、ただ建っている塔と、それを眺めるためだけの空間です。
けれど、オーナーが本当に求めていたのは、おそらく別のものでした。間伐材で建てる、人が泊まれる場所。つまり、用のある建築です。
今回は、そのために用意していたスケッチを紹介します。
隠されてきた「木口」
日本の木造建築は、昔から木の切り口、いわゆる「木口(こぐち)」を隠してきました。木口は水を吸いやすく、傷みやすい場所です。だから垂木の先には鼻隠しを打ち、板の端には木口を隠すための材を当てる。木口を見せないことが、丁寧な仕事の証でした。
この案は、その逆をいきます。年輪、木目、製材の断面、積み上げた丸太の小口。伐採された直後の、木のいちばん正直な姿を、あえて誇張して外観に表しました。木は建材になる前に、まず木だった。そのことを隠さない建築です。
どの案にも共通するのは、煙突のついた三角屋根という、子どもが描くような「家」の形です。誰が見ても家とわかる形の中に、木の生の表情を詰め込んでいます。
木目をまとう




まずは木目です。丸太を縦に挽いたときに現れる年輪の模様を、外壁いっぱいに拡大しました。屋根の稜線には、辺材から心材へ移る赤みが帯のように残ります。一本の木を切り開いて、その断面で家をかたどったような姿です。
製材を積む




次は、製材所の土場に積まれた角材です。乾燥を待つ材木の山は、それだけで壁のような迫力があります。その小口の並びを、そのまま建築の表情にしました。
足元には濃い色の石を据えています。木は地面からの湿気に弱く、石は湿気に強い。木を石の上に載せるのは、礎石の上に柱を立ててきた日本建築の基本でもあります。
丸太の小口




丸太の切り口をびっしりと積んだ姿は、冬に備えた薪棚を思わせます。太いもの、細いもの、少し割れたもの。間伐材は径が揃わないことが嫌われる理由の一つですが、小口を並べてみると、その不揃いこそが表情になります。
丸太を壁に積む工法そのものは、実は古くからあります。北米やヨーロッパには、短く切った丸太を横向きに並べ、すき間を埋めて壁にする「コードウッド」と呼ばれる建て方が残っています。薪の山は、もともと家の壁に近い存在だったのです。
一本の木を抱く




いくつかの案には、建物のすき間や中央に、生きた木が一本立っています。間伐で切られた木で建てた家が、まだ生きている木を抱いている。森から出てきた木と、これから育つ木が、同じ場所にいるという構図です。
家が群れになる


最後は、一つひとつの家をばらばらにして、草原に散らした案です。丸太の家、角材の家、木目の家、編んだような家。同じ間伐材でも、切り方と積み方でこれだけ表情が変わります。泊まる人は、今夜どの木の家に眠るかを選ぶことになります。
用のある長物
前回の塔は、間伐材にあえて用途を与えませんでした。今回はその逆で、人を泊めるという、はっきりした役目があります。
ただし、どちらにも共通する考えがあります。間伐材を、木であったことを忘れた「材料」として扱わないこと。年輪も、小口も、不揃いな太さも、そのまま見せること。
もっと森にいたかった木が、今度は人を迎え入れる。木のままの姿で泊めてくれる宿があってもいい。そんな考え方もある、という一つの提案です。