石垣をまとうゲストハウス ― 憧れへのプレゼント

日本が好きで、日本人が好きで、何より日本の城が好き。

「HOTELバンブーグリット、スクエアー」や「HOTEL バンブー&ストーン」と同じ海外のオーナーによる、もうひとつの建築計画です。

今回のテーマは、日本の城、そして石垣。

日本の城に強い憧れを持つオーナーから、石垣のイメージを生かしたゲストハウスと関連施設のデザインが求められました。

石垣の上に建物を建てるのか。それとも、石垣そのものを建築にするのか。

その問いから、新しい建築の物語が始まります。

切妻屋根の家の形をした石積みの壁が、紅葉と夕景の芝生の上に建つゲストハウスの外観
石垣をまとうゲストハウス。家の形そのものが、石積みで描かれている

石垣の上か、石垣そのものか

日本の城と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、高い石垣の上にそびえる天守の姿でしょう。オーナーが描いていたのも、おそらく石垣の上にゲストハウスが建つイメージでした。

しかし、この計画が選んだのは別の答えです。石垣の上に建物を載せるのではなく、建物そのものを石垣にする。

完成予想図では、切妻屋根の家の輪郭が、そのまま石積みで形づくられています。屋根も壁も、すべてが石垣。足元にはわずかな柱が見え、重いはずの石の家が、芝生の上にふわりと浮いているようにも見えます。

天守は消えても、石垣は残った

日本の城の歴史をたどると、ひとつの事実に行きあたります。

日本各地の城では、戦乱や火災、明治以降の城郭整理などによって、多くの天守や櫓が失われました。それでも、石垣は各地に残り、かつてそこに城があったことを今に伝えています。

山の上に石垣だけが連なる兵庫県の竹田城跡は、雲海に浮かぶ姿から「天空の城」と呼ばれ、多くの人を惹きつけています。建物を失ってなお、石垣は城の記憶を伝え続けているのです。

石垣の上に何を建てるかではなく、石垣そのものが建築になる。それは、城の中でいちばん長く生き残ってきたものに、建築を託す発想でもあります。

石を積む技

石垣には、積み方によっていくつもの表情があります。

自然の石をほとんど加工せずに積み上げる「野面積み(のづらづみ)」。石の角を打ち欠いて隙間を減らす「打込接(うちこみはぎ)」。石をきっちりと加工して隙間なく組む「切込接(きりこみはぎ)」。

なかでも野面積みは、大きさも形もばらばらな石を、互いに噛み合わせながら積んでいく技です。戦国時代から近世にかけて、近江の穴太衆(あのうしゅう)と呼ばれる石工たちは、城郭の石垣づくりに関わったことで知られています。自然石の形を見極め、石同士を巧みに組み合わせる技術は、日本の石垣文化を象徴するもののひとつです。

ゲストハウスの壁に描かれているのも、不揃いな石が寄り添いながら積み重なる、野面積みを思わせる表情です。一つひとつ形の異なる石を組み合わせたような表情が、壁全体に力強さと温かさを与えています。

家の形をした石垣の上や間で子どもたちが遊び、足元には地層のような岩の起伏が広がるポケットパーク
子どもたちのための石垣のポケットパーク。家の形の石垣に登り、地層のような起伏の上を駆けまわる

子どもたちのための、小さな石垣

もうひとつの提案は、子どもたちのための、小さな、小さな石垣のポケットパークです。

家の形を思わせる小さな石垣が並び、子どもたちはその上に登り、腰かけ、間をくぐり抜けていきます。足元には、水に削られた岩の地層を思わせる起伏が広がり、まるで大地の中を探検しているかのようです。

かつて城を守るために築かれた石垣が、ここでは子どもたちの遊びと発見を生み出す空間へと姿を変えています。

ゆるやかな芝生の丘の向こうに、家の形の石垣と遊ぶ子どもたちが見えるポケットパーク
芝生の丘の向こうに、石垣の遊び場がのぞく。大人の視線から少し隠れた、子どもたちだけの世界

「遊ぼうよ」という依頼

城が好きで、石垣に憧れるオーナー。その依頼は、実現性や機能だけを問うものではなかったのかもしれません。

デザインを通じて、いっしょに遊ぼう。石垣という共通の憧れを手がかりに、アイデアを投げ合い、楽しく語り合おう。そんな呼びかけが、依頼の奥にあったようにも見えます。

建築の提案は、図面やスケッチだけで完結するものではありません。そのデザインがどんな思考から生まれたのか、どんなプロセスを経てきたのか。それを語り合うことも、設計の大切な一部です。

書くように描き、話すように描き、描くように話す。言葉と絵を行き来しながら、相手と同じ景色を見ようとすること。そして、もちろん、建築としての本筋がしっかりと通っていることが、その大前提です。

そのためには、建築の技術だけではなく、歴史や文化、芸術など、幅広い教養も大切になります。ときには得意な話題を通して相手の関心を引き出し、ときには肩の力を抜いて、相手が自由に意見を言える余地をつくる。

一方的に説明するのではなく、オーナーとともに考え、語り合う。その積み重ねもまた、建築を形づくる大切なプロセスなのです。

憧れへのプレゼント

石垣の上に建物を載せるという、最初に思い描かれていたイメージ。それをそのまま形にするのではなく、オーナーが本当に憧れていたもの、石垣そのものへの敬愛と敬意を、建築として差し出すこと。

石垣をまとうゲストハウスと、子どもたちのための小さな石垣の公園。それは、言葉で説明する前に、デザインそのものが語りかける提案です。

天守が消えても残り続けた石垣のように、この「憧れへのプレゼント」が、いつか実際の風景として形になる日を楽しみにしたいと思います。