都内の繁華街の入口。大型ビジョン、原色の看板、飲食店や娯楽施設のサインがひしめき、どのビルも強い存在感を競い合っています。
その一角、交差点に面した狭い角地に、一棟のペンシルホテルが計画されました。
その名は「HOTEL ザ・バンブー」。

派手さの洪水の中で
これほど狭く、これほど騒がしい場所に建物を建てるとき、設計者はしばしば「静けさ」を選びます。
周囲の喧騒から一歩引き、控えめでありながら芯の通った佇まいで存在を示す。それも都市建築の一つの方法です。
しかし、この計画では、あえて逆の方法が選ばれました。
周囲の派手な建築群に同調しながら、それらに埋もれない明確な造形をつくり出す。
その発想の出発点となったのが、「竹」でした。
街は竹林、ビルは竹の束
街全体を、一つの巨大な竹林と考える。
林立するビルは、空に向かって伸びる竹。その竹林の隅に、刈り取られた竹がひと束、置かれている。
ホテルは、その「竹束」として構想されています。

街を竹林、建物を竹束とする、いわば二元論のデザインです。
建物を既製のユニットのように都市の隙間へ「組み込む」のではありません。
刈り取った竹を束ねて、街角に「置く」。
このわずかな言葉の違いが、建築のあり方を大きく変えています。
建築は都市の中に建てられるものでありながら、同時に、都市の風景に置かれた一つの造形物として考えられているのです。
あえて強く主張する理由
ファサードは、黄金色の縦ルーバーを束ねたような量塊が、一段、二段と積み上がる構成です。
竹の節を思わせる水平の分節、束と束のずれ、重なり、そしてわずかな隙間。
それらが組み合わされ、周囲の派手なビル群に負けない、明確なフォルムをつくり出しています。

しかし、この強い主張は、必ずしも街から浮き上がることを意味しません。
周囲の看板建築と張り合うのではなく、同じ熱量で並び立つことで、都市の流れの一員となっていく。
騒がしい街に静けさで対抗するのではなく、街の文法で語りながら、その中に「竹」という別の物語を差し込んでいるのです。
黄昏からミッドナイトへ ― 光のメタモルフォーゼ
この建築のもう一つの特徴は、夜になると姿を変えることです。
束ねられた竹の隙間から光が差し込み、黄昏から深夜へと、建物の表情が変化していきます。
昼間は黄金色の素材によって形づくられていた竹束が、夜には光によって浮かび上がる。
その姿は、内側から発光する大きな灯籠のようでもあります。

建物の頂部から空へ伸びる光の柱は、竹の持つ垂直性をさらに強調しています。
ここで重要なのは、単に建物をライトアップするということではありません。
光そのものが建築の造形を構成し、時間の経過によって建物の印象を変えていく。
竹束のデフォルメから、光によるメタモルフォーゼ(変容)へ。
建築は昼と夜で異なる表情を持ちながら、一つのコンセプトによって結びついています。
二つの夜景 ― バンブーメッシュとバンブーBOX
竹という一つの着想から、異なる外観表現も検討されています。
一つは「バンブーメッシュ」。
竹を編んだような網目状の外皮で建物を包み、連続する表面の中に光の表情を生み出す方法です。
もう一つは「バンブーBOX」。
束ねた竹を一段ずつ積み重ねたような立体構成によって、水平の分節と光の強弱を際立たせています。

メッシュは竹の反復性を、BOXは竹束の量塊と重なりを強調する表現と見ることができます。
同じ自然物を出発点としながら、どの特徴を取り出し、どのように変形させるかによって、建築の姿は大きく変わります。
これは、自然の形をそのまま模倣するのではなく、その構造や性質を読み取り、建築へと展開するデザインの一例といえるでしょう。
色と光を何度も試す ― シミュレーションの積み重ね
建築のデザインは、一つの着想だけで完成するものではありません。
HOTEL ザ・バンブーでは、竹束のフォルムにさまざまな色彩を当てはめ、デイライト、トワイライト、ナイトライト、ミッドナイトと、時間帯による見え方の違いを検討しています。

夜間の検討では、光の色や強さ、建物の輪郭、周囲の街並みとの関係、路面への光の映り込みなども確認していきます。
黄金色を基調とした外観表現も、こうした色彩と光の比較検討を通して具体化されていきました。
ここで重要なのは、単に美しい完成予想図を描くことではありません。
設計者の頭の中にあるイメージを視覚化し、異なる条件で繰り返し比較・検証すること。その積み重ねによって、建築のデザインはより具体的なものになっていきます。
シミュレーションは、完成形を見せるためだけの表現手段ではなく、設計そのものを深めていくための重要な過程なのです。
伸びる竹、積む竹
竹の垂直性を連想させる建築として、ニューヨークの旧世界貿易センターのツインタワーを思い浮かべることもできます。
外周に密に配置された柱が建物を支える構造を持ち、まっすぐ空へ伸びる姿は、竹の垂直性と重ねて見ることができます。
一方、HOTEL ザ・バンブーは、竹をまっすぐ伸ばすのではなく、刈り取った竹束を一段、また一段と積み重ねる発想です。
街そのものが竹林である以上、建物まで竹林になる必要はありません。
ここでは、竹は刈り取られ、人の手で束ねられ、都市の角地に置かれます。
自然の竹が持つ垂直性を残しながら、積み重ねるという操作によって、独自の建築的な秩序が生み出されているのです。
すべては、ひと晩の安眠のために
都市との関係、竹束の造形、光による変容。
さまざまな発想を重ねた計画ですが、その先にある目的は明確です。
ゲストの安眠と安らぎを確保すること。
ホテルは、都市の中で存在を示す建築であると同時に、人が一日の疲れを癒やし、静かに眠るための場所でもあります。
外に向かっては繁華街と同じ声量で語りながら、その内側には、安眠と安らぎのための空間を目指す。
強い造形と、静かな目的。
この対比こそが、HOTEL ザ・バンブーの建築思想を特徴づけています。
喧騒のただ中に置かれた黄金の竹束。
それは都市に向けて存在感を示しながら、人が静かに眠る場所をつくろうとする、一つの建築の提案なのです。