風水と建築 「天・地・人」から空間を考える

ここに掲載する資料は、風水を単なる方位や吉凶の判断としてではなく、地理・地勢・気候・水・人間・建築などを総合して空間を考える方法論として整理したものである。

日本で「風水」というと、玄関の方角や部屋の配置、運勢などを連想することが多い。しかし、この資料で中心となっているのは、より広い意味での「地理風水」である。

基本にあるのは、東洋に古くからある「天・地・人」という考え方だ。

天には気候や天文、地には地形・地質・水系、人にはそこで暮らし活動する人間がある。そして建築や庭園、都市、ランドスケープといった人工的な空間も、それらから切り離して考えることはできない。

資料では、こうした自然環境と人間環境を一体として捉え、地理学、地質学、幾何学、景観、建築など、異なる分野の知識を組み合わせながら空間を読み解こうとしている。

大理石や御影石などの天然石もまた、大地から生まれ、人によって切り出され、建築の一部となる素材である。

「石を見ることは、大地を見ることでもある」。

そう考えると、この風水の資料は、石と建築、そして人間との関係を考えるうえでも、興味深い参考資料の一つといえるだろう。

風水理論からジオマンシア理論へ

図0 風水理論から「ジオマンシア理論」へ

最初の図は、この資料全体の入口にあたる。

ここでは風水を、単なる占いや方位判断としてではなく、大地と人間の関係を読み解く「ジオマンシア(Geomancy)」的な理論へ展開するものとして位置づけている。

土地を読み、そこにどのような空間をつくるかという考え方が、この後の図の基本になる。

風水とは何か

図1 「風水」とは何か

この資料では「風水」を、より正式には「地理風水」と捉えている。

地理・地勢を分析する「ジオマンシー」、大地を測る「ジオメトリー」、大地のあり方を考える「ジオグラフィー」などを関連づけ、大地を総合的に読み取る方法として風水を説明している。

現代的に言えば、敷地分析や環境計画に通じる部分を持った考え方である。

四つの環境

図2 四つの環境

人を取り巻く環境を、大きく四つに分けて考えている。

「自然環境」「人体・人間環境」「造形空間環境」「宿命・運行環境」である。

特に建築との関係で重要なのが、自然環境と造形空間環境である。土地そのものの条件を読みながら、建築、庭園、ランドスケープ、インテリアなどの人工空間をつくっていく。

つまり、自然と建築を別々に考えないことが基本になっている。

共生と融合

図3 共生と融合

ここでは風水の目的を「共生と融合」という言葉で説明している。

天空、大地、人間環境が互いに独立して存在するのではなく、それらが調和した一つの空間を形成する。

建築も自然の上に置かれた異物ではなく、自然環境と人間環境をつなぐ存在として考えるということである。

4理・4文という構成

図4 「4理・4文」という構成

この図では、空間を理解するための要素を「天文・地文・水文・人文」と、それに対応する「天理・地理・摂理・定理」という形で整理している。

気候や天文だけを見るのでもなく、地形だけを見るのでもない。

天・地・水・人を一つの体系として読むことが、この資料における風水的思考の特徴として示されている。

大地を構成する要素

図4-1 大地を構成する要素

ここでは大地を理解するために、

Geometry(幾何・計測)
Geography(地理)
Geology(地質)
Geomancy(大地の法則)
Ground Position(場所・位置)
Geopolitics(地勢)

など、複数の視点を組み合わせている。

一つの土地を理解するためには、地形だけでなく、地質、位置、計測など、多方向から見る必要があるという考え方である。

天然石を考える場合にも、地質と地理が切り離せないことを思わせる図である。

風・水・土・人から考える

図5 「風・水・土・人」から考える

風水という二文字を「風」と「水」だけで捉えず、そこに「土」と「人」を加えている点が興味深い。

風は気候や大気、水は河川や海などの水系、土は地形や地質、そして人は人間の生活や文化を表す。

つまり風水は、風・水・土・人が相互に関係する環境全体を読むものとして整理されている。

形と理

図6 「形」と「理」

この資料の中でも重要な図である。

「形派」は、山、川、地形、地勢、風景など、実際に目に見える形から土地を読む。一方の「理派」は、数値、数学、幾何学、方位、時間などを使って関係性を読み解く。

資料では、この二つを対立させるのではなく、

「形」+「理」

として組み合わせることを重視している。

感覚だけでも、数字だけでもなく、両方から空間を見るという発想である。

風水を実際の設計へ展開する

図8 風水を実際の設計へ展開する

ここでは理論から実践への流れが示されている。

自然環境を読み、人間の特性や行動を考え、それを建築、ランドスケープ、庭園、インテリアなどの設計へ展開していく。

この段階になると風水は思想だけではなく、「どのような空間をつくるか」という設計のための方法論として扱われていることが分かる。

地理と地誌

図9 地理と地誌

ここでは「地理風水」を中心として、自然地理、歴史地理、人文地理、景観地理などへ考え方を広げている。

土地には、地形や地質だけでなく、歴史があり、人々の生活があり、文化がある。

したがって、その場所を理解するには、自然・歴史・文化・景観を一体として見る必要があるという考え方である。

大地の法則

図10 「大地の法則」

天文・地文・水文・人文を一つの大きな三角形の中に配置し、「大地の理」「大地の定理」などと関連づけている。

資料全体の考え方を一枚にまとめた図ともいえる。

天空から大地、人間までを一つの連続した体系として捉えることで、土地や空間を理解しようとしている。

自然環境と人工空間

図11 自然環境と人工空間

ここでは「地理風水」を、自然環境と人工的につくられた空間を結ぶ考え方として示している。

建築や都市は自然とは別の存在ではなく、自然条件を読み取ったうえで人間がつくる第二の環境と考えることができる。

建築と風水との関係を理解するうえで、比較的分かりやすい図である。

人間は自然の一部

図12 人間は自然の一部

東洋的な自然観では「人間は自然界の一部」と考える。

一方、資料では対比として、ヨーロッパ的な考え方では人間と自然を分けて捉える傾向がある、と説明している。

ただし、これは東洋と西洋の思想を大きく類型化した説明であり、すべての東洋思想・西洋思想にそのまま当てはまるものではないことには注意したい。

この図で重要なのは、「人間を自然から切り離さずに空間を考える」という点である。

天・人・大地の一体論

図13 「天・人・大地」の一体論

風水の基本となる「天・地・人」の関係を視覚的に示した図である。

天の条件が大地に影響し、大地の条件が人間の暮らしに影響する。そして人間もまた大地に働きかける。

つまり三者は一方向の関係ではなく、互いに影響し合う一つの系として捉えられている。

大理石も御影石も、もとは大地を構成していた一部分である。

人はその石を大地から切り出し、建築という新しい空間の中へ移してきた。風水を「大地と人間と建築の関係を考える思想」として見るなら、天然石ほどその関係を分かりやすく物語る建築材料はないのかもしれない。

風水から世界の建築と文化を見る

風水という視点をさらに広げていくと、土地や方位だけでなく、都市、建築、宗教空間、歴史、文化へとつながっていく。

以下の図は、風水の基本的な考え方から、世界各地の建築や都市、神聖空間までを一つの流れとして整理したものである。

ここに挙げられている建築物や人物が、必ずしも風水思想に基づいて設計・活動したことを意味するものではない。風水という一つの視点から、建築や文化を読み解いていくための案内図として見ていただきたい。

風水から世界の建築と文化を見る

この図では、風水の考え方を出発点として、自然環境、都市、建築、宗教、文化へと視野を広げている。

人間は古くから、山や川、太陽、方位、地形などを読みながら、自分たちが暮らす場所を選び、都市や建築をつくってきた。

その方法や思想は地域によって異なるが、自然と人間との関係をどのように空間として表現するかという問いは、世界の建築に共通するテーマでもある。

世界の建築・都市・文化と風水

東洋の風水から始まった視点を世界へ広げてみると、古代都市、宗教建築、庭園、宮殿、近代建築、現代都市まで、さまざまな空間のつくり方が見えてくる。

もちろん、ここに登場する建築や人物が風水を取り入れていたという意味ではない。

重要なのは、建築を建物だけで見るのではなく、大地、自然、歴史、文化、思想、そして人間との関係の中で見ることである。

石から大地へ、そして建築へ

石を調べていくと、その石が生まれた大地へたどり着く。

大地を調べていくと、山や川、気候、地質、そしてそこで暮らしてきた人々の歴史へとつながっていく。

そして人は、その大地から石や木を取り出し、建築をつくってきた。

風水を単なる方位や吉凶の判断ではなく、「天・地・人」の関係から空間を考える思想として見ると、石、自然、人間、建築は決して別々のものではないことが見えてくる。

石を見ることは、大地を見ること。
建築を見ることは、人と大地との関係を見ること。

そんな視点から世界の石や建築を眺めてみると、これまでとは少し違った風景が見えてくるかもしれない。