地球の重力を感じる吹き抜け ― 草原の円形ホテルと自然との距離

草原に建つ円形宿泊施設の巨大な吹き抜け空間とインフィーロファイバー
1F・2Fを貫く円形のボイド。
天井から垂れるインフィーロファイバーが、天と地を一本の線で結ぶ。

建築の世界には、ひとつの「王道」があります。

自然と建築を一体にせよ。大きな窓を開け、風景を室内に招き入れ、内と外の境界を溶かせ――。この計画でも、その考え方は長く大切にされてきました。

ところが、草原に建つこの宿泊施設では、その王道をあえて選びませんでした。

四角では「合わなかった」

最初に検討されたのは、ごく一般的な矩形の空間でした。しかし敷地の特性を読み込むほどに、答えははっきりしていきます。言ってしまえば、「早い話が、合わない」。

草原という、どこにも角のない場所です。自然環境、宿泊施設としての機能、人が過ごす空間のあり方を重ね合わせたとき、必然的に浮かび上がってきた形がラウンド、つまり円形でした。

円には正面も裏側もありません。特定の方向に顔を向けず、草原の中にひとつの独立した空間をつくる。そして円形の構成は、建築の内側に「中心」を生み出します。

同時に、この土地では自然に向けて空間を大きく開くことが最善ではない、という結論にも至りました。客室にも小さな窓はありますが、風景とは少し距離を置いています。自然が悪いのではありません。人と人に相性があるように、自然と空間の構成、機能、目的にも相性があるのです。

お詫びとしての吹き抜け

自然との一体感が薄れる。その代わりに差し出されたのが、円の中心を貫く巨大な吹き抜け(ボイド)でした。いわば、自然への「お詫び」です。

1F・2Fを貫くボイドの天井からは、無数のインフィーロファイバーが垂直に垂れ下がり、天と地を結ぶ見えない軸を描き出しています。磨かれた床面には頭上の空間が映り込み、視線は天井から足元へ、そして再び頭上へと導かれます。

頭上に広がる空間と、足元に感じる大地の重力。普段は意識することのないその二つを、同時に感じさせること。窓の外の風景ではなく、建築の内部に生まれたこの垂直の広がりこそが、この空間にとっての「自然」です。

円形の内部空間と、頭上の天。ここで古代ローマのパンテオンを思い起こす人もいるでしょう。ただしパンテオンは、天井に穴(オクルス)を開けて本物の空と光、ときには雨までも招き入れました。一方、この円形ホテルでは、天井から垂れ下がる無数の細い線によって、天地のつながりを表現しています。外の自然を直接取り込むのとは異なる方法で、自然の存在を感じさせようとしているのです。二千年の時を隔てた、もうひとつの答え方です。

一歩外に出たときの感動のために

絞り込まれた客室を出て、巨大な吹き抜けに面した空間へ足を踏み入れる。そこで一度、気持ちが解き放たれる。さらに建物の外へ出て、草原の風に触れたとき、少しでも安らぎを感じてもらえたら。

あえて自然から距離を置いたのは、自然に触れた瞬間の感動を、より深くするための設計でもあります。

自然は、むずかしい。やさしくもない。近づきすぎると嫌がられ、離れすぎると「なぜ来ない」と叱られる。それでも、自然は素晴らしい。私たちは大地の上に立ち、自然の一部として生きています。驕ってはいけないのです。

だからこそ、この建築は自然に向かって、静かに敬意を表しています。