HOTELバンブーグリット、スクエアー ― 大地が起きて、壁になる

かつて、そこには竹林がありました。

長い年月、風に揺れ、雨を受け、季節を重ねながら、竹たちはその土地で生きてきました。

しかし、竹林は伐採され、切り出された竹木が大地の上に無造作に横たわっています。

その光景を前に、ひとつの発想が生まれました。

長い時間を自然の中で生き抜いてきた竹木に敬意を払い、その記憶を新しい建築空間の中に受け継ぐことはできないだろうか。

シリーズ第三弾となる「HOTELバンブーグリット、スクエアー」は、かつて竹林だった土地に計画された、海外のオーナーによるリゾートホテルの構想です。

その中心にあるのが、「大地が起きて、壁になる」という独創的な建築思想です。

夕暮れの高原に広がる竹の質感をまとった矩形の壁面によるリゾートホテル計画
リゾートホテル計画の一例。竹の質感を思わせる矩形の壁面が、夕暮れの大地に水平に広がる。

竹束、竹の皮、そして横たわる竹木

第一弾の「HOTEL ザ・バンブー」は、都市の角地に計画されたペンシルホテルでした。

竹がまっすぐ空へ伸びる生命力を、竹束という力強い建築のフォルムに置き換えた計画です。

第二弾の「静かなHOTELバンブー」では、舞台を高原に移し、竹の皮がそよ風にゆらぐ繊細な世界を描きました。

そして第三弾が向き合うのは、立っている竹でも、ゆらぐ竹の皮でもありません。

伐採され、大地に横たわる竹木です。

第一弾では竹の生命力、第二弾では竹の皮の繊細さ、そして第三弾では、竹木が生きてきた時間と大地の記憶へと視点が移ります。

同じ竹をテーマにしながら、建築の発想はさらに広がっていきます。

生き抜いてきた竹木への敬意

竹林の跡地には、伐採された竹木が無造作に置かれていました。

自然の中で長い年月を生き抜いてきた竹たち。

美しい季節だけではなく、厳しい風雨や環境の変化にも耐えながら、その土地に根を張ってきた存在です。

その竹木を、単なる不要なものとして片づけるのではなく、建築空間を構成する一員として迎え入れる。

いわば、竹木に第二の人生を送ってもらうという発想です。

竹木が持っていた生命力や、長い時間を生き抜いてきた記憶を、建築の形や空間構成へと受け継いでいく。それがこの計画の出発点です。

自然の存在を擬人化し、そこに物語を与える。

その物語を建築のコンセプトとして展開することで、単なる造形ではない、意味を持った空間が生まれていきます。

「大地が起きて、壁になる」

この計画の中心にあるのが、「大地が起きて、壁になる」という構想です。

竹林の跡地に残された大地の模様、表情、そこに積み重なってきた時間。

それらを建築の発想の原点として、土地の持つイメージを抽象化し、新しい形へと変換していきます。

地面に横たわっていたものが、ゆっくりと身を起こし、垂直の壁となって立ち上がる。

大地そのものが姿を変え、建築空間を構成する一員になるというイメージです。

ここでは、自然の形をそのまま模倣するのではありません。

大地の持つ表情をいったん解きほぐし、幾何学的な秩序を与えながら、新しい空間へと再構成していきます。

自然の記憶が、建築という別の姿へ変わっていく。

それは、デフォルメやメタモルフォーゼ、すなわち形態の変形と変容によって生まれる建築の物語です。

円(まどか)円形から方(ほう)矩形に ― グリッドが生まれるまで

大地の表情を幾何学的に整理していく中で、空間の形は円から方へ、円形から矩形へと変化していきます。

柔らかな曲線の世界から、直線によって構成される秩序ある世界へ。

矩形を組み合わせ、重ね合わせ、部分的に抜き取ることで、壁面と空間が一体となったグリッド構成が生まれます。

グリッドとは、縦横の線によってつくられる格子状の構成です。

建築では、柱や壁の配置を整理する基本的な考え方として用いられますが、この計画では、単なる寸法や構造の整理にとどまりません。

竹木の記憶を宿した壁面と、その間に生まれる空間を、ひとつの建築として結びつける役割を担っています。

自然の中にあった不規則な表情を、幾何学的な秩序へと変換する。

大地の記憶から矩形が生まれ、矩形が集まってグリッドとなり、グリッドが建築空間をつくり出していく。

この一連の変化こそ、今回の計画における重要なデザインプロセスです。

壁と抜けがつくる、竹木の広場

完成予想図を見ると、大小の矩形が組み合わされ、壁面と開放された空間が交互に現れています。

竹の質感を思わせる壁面がある一方で、その間には大きな抜けが設けられています。

抜けた空間には樹木が置かれ、人々が歩き、立ち止まり、向こう側の風景を眺めることができます。

壁は、単に内と外を仕切るためだけのものではありません。

壁と壁の間に生まれる余白もまた、建築を構成する大切な空間です。

そこには、人が集う場所があり、樹木が育つ場所があり、光や風が通り抜ける場所があります。

壁面と抜けの空間が一体となり、建築全体がひとつの広場のような性格を持っています。

かつて竹木が立っていた大地の記憶を、新しい建築空間の中に受け継ぐ構成です。

竹の質感を持つ矩形の壁面と樹木が配置された開放空間が立体的に組み合わされたホテル計画
もう一つの計画地における外観構想。
壁面と抜けの空間が立体的に重なり、樹木と人々の居場所を生み出している。

太く、たくましい竹木のディテール

第二弾の「静かなHOTELバンブー」では、薄く柔らかな竹の皮がデザインの主題でした。

それに対して今回の計画では、竹木が長い年月を生き抜いてきた力強さが表現されています。

縦横に連なる太いライン、深い陰影、幾重にも重なった矩形の壁面。

その表情には、繊細な竹の皮とは異なる、重厚さとたくましさがあります。

自然の中で長く生きてきた竹木の存在感を、建築のディテールとして表現する。

ここでは竹を単なる装飾的なモチーフとして扱うのではなく、建築全体の構成や壁面の表情にまで展開しています。

そのため、建物の形そのものが、竹木の生命力を伝える存在となっています。

二つの土地に、ひとつのコンセプト

今回紹介する二つの完成予想図は、それぞれ異なるエリアに計画されたリゾートホテルです。

二つの計画地には類似した立地特性があり、同じ建築コンセプトが展開されています。

一方は、矩形の壁面が水平方向に長く広がる構成。

もう一方は、壁面と抜けの空間を立体的に積み重ねた構成です。

建築の姿は異なりますが、どちらにも「大地が起きて、壁になる」という思想が流れています。

同じコンセプトであっても、土地の条件や空間の組み立て方によって、建築の表情は変化します。

それは、デザインコンセプトが単なる外観の形ではなく、建築全体を生み出す考え方であることを示しています。

寄り添うための、しっかりとした主張

自然の中にも、さまざまな時間があります。

風に揺れ、雨を受け、長い年月を生き抜いてきた竹木。

そして、伐採され、大地に横たわることになった竹木。

この計画は、その存在に敬意を払い、失われた竹林の記憶を、新しい建築空間へと受け継ごうとしています。

第二弾の「静かなHOTELバンブー」が、自然へのやさしい主張を描いたとすれば、今回の計画は、竹木の記憶を、しっかりとした建築の造形によって表現しています。

自然に寄り添うことは、必ずしも建築の存在を控えめにすることだけではありません。

時には、明確な形を与え、力強い空間として表現することも、自然への敬意の示し方となります。

横たわっていた竹木の存在が、大地の記憶とともに幾何学的な壁面となり、人々が集う空間へと姿を変えていく。

大地が起きて、壁になる。

それは、竹木が生きてきた時間を、建築という新しい形で未来へつなぐ物語です。