木は、木のままで ―― 間伐材の宿

前回、同じオーナーのために、間伐材で「無用の長物」をつくりました。用途も目的もなく、ただ建っている塔と、それを眺めるためだけの空間です。

けれど、オーナーが本当に求めていたのは、おそらく別のものでした。間伐材で建てる、人が泊まれる場所。つまり、用のある建築です。

今回は、そのために用意していたスケッチを紹介します。

隠されてきた「木口」

日本の木造建築は、昔から木の切り口、いわゆる「木口(こぐち)」を隠してきました。木口は水を吸いやすく、傷みやすい場所です。だから垂木の先には鼻隠しを打ち、板の端には木口を隠すための材を当てる。木口を見せないことが、丁寧な仕事の証でした。

この案は、その逆をいきます。年輪、木目、製材の断面、積み上げた丸太の小口。伐採された直後の、木のいちばん正直な姿を、あえて誇張して外観に表しました。木は建材になる前に、まず木だった。そのことを隠さない建築です。

どの案にも共通するのは、煙突のついた三角屋根という、子どもが描くような「家」の形です。誰が見ても家とわかる形の中に、木の生の表情を詰め込んでいます。

木目をまとう

年輪と木目を拡大した外観の、横に長い宿泊棟のスケッチ
年輪の流れをそのまま外壁にした案。屋根の先端に、樹皮に近い赤身が残る。
波打つ木目の外壁に、樹木の開口を設けた宿泊棟のスケッチ
波打つ木目の壁。一つの開口の中には、一本の木が立っている。
木目の家形が五つ連なり、端に大きな棟がある宿泊棟のスケッチ
小さな家が連なる客室棟と、端に建つ大きな共用棟。
木目の家形三棟を水平の帯でつないだ宿泊棟のスケッチ
三つの家を、横に走る木の帯がつなぐ。

まずは木目です。丸太を縦に挽いたときに現れる年輪の模様を、外壁いっぱいに拡大しました。屋根の稜線には、辺材から心材へ移る赤みが帯のように残ります。一本の木を切り開いて、その断面で家をかたどったような姿です。

製材を積む

製材した角材を積み上げた家形三棟の宿泊棟のスケッチ
同じ配置を、角材の小口で構成した案。
角材を積んだ大きな家形と、濃色の石の足元をもつ宿泊棟のスケッチ
角材の塊を、濃い色の石の基壇が支える。
木目、角材、丸太、竹など異なる木の表情を並べた横長の宿泊棟のスケッチ
木目、角材、丸太、竹。木のさまざまな姿を一列に並べた案。
角材の小さな家形三棟と大きな家形一棟が並ぶ宿泊棟のスケッチ
三つの小さな家と、一つの大きな家。

次は、製材所の土場に積まれた角材です。乾燥を待つ材木の山は、それだけで壁のような迫力があります。その小口の並びを、そのまま建築の表情にしました。

足元には濃い色の石を据えています。木は地面からの湿気に弱く、石は湿気に強い。木を石の上に載せるのは、礎石の上に柱を立ててきた日本建築の基本でもあります。

丸太の小口

丸太の小口を積み上げた外観に、青い縦線が入った宿泊棟のスケッチ(秋の夕景)
薪棚のように丸太を積んだ案。秋の夕景。
丸太の小口を積み上げた宿泊棟のスケッチ(冬の景色)
同じ案を、葉の落ちた季節に置いてみる。
丸太の小口で構成し、中央上部に家形を載せた宿泊棟のスケッチ(紅葉)
丸太の壁の上に、もう一つの家が載る。
丸太の小口で構成し、中央上部に家形を載せた宿泊棟のスケッチ(新緑)
同じ案の新緑の季節。壁の切れ目から木が伸びる。

丸太の切り口をびっしりと積んだ姿は、冬に備えた薪棚を思わせます。太いもの、細いもの、少し割れたもの。間伐材は径が揃わないことが嫌われる理由の一つですが、小口を並べてみると、その不揃いこそが表情になります。

丸太を壁に積む工法そのものは、実は古くからあります。北米やヨーロッパには、短く切った丸太を横向きに並べ、すき間を埋めて壁にする「コードウッド」と呼ばれる建て方が残っています。薪の山は、もともと家の壁に近い存在だったのです。

一本の木を抱く

角材を積んだ家形と低い棟の間に、紅葉の木が立つ宿泊棟のスケッチ
二つの棟の間に、一本の木を残す。
角材を積んだ二つの棟と、間に立つ木、ガラスの帯がある宿泊棟のスケッチ
屋根を外し、ガラスの帯を挟んだ別案。
角材を積んだ家形と低い棟の間に、緑の木が立つ宿泊棟のスケッチ
同じ案の、緑の季節。
木目のパネルで構成した箱型の建物の中央に、木を植えた開口がある宿泊棟のスケッチ
木目の箱の真ん中に、一本の木の居場所をつくる。

いくつかの案には、建物のすき間や中央に、生きた木が一本立っています。間伐で切られた木で建てた家が、まだ生きている木を抱いている。森から出てきた木と、これから育つ木が、同じ場所にいるという構図です。

家が群れになる

丸太、角材、木目など異なる素材の家形が草原に点在するスケッチ
素材の違う家が、草原に点々と建つ。
さまざまな木の表情をもつ小さな家形が一列に並び、子どもが大きな家形に座るスケッチ
小さな家が一列に並ぶ。手前の家には、子どもたちが腰かけている。

最後は、一つひとつの家をばらばらにして、草原に散らした案です。丸太の家、角材の家、木目の家、編んだような家。同じ間伐材でも、切り方と積み方でこれだけ表情が変わります。泊まる人は、今夜どの木の家に眠るかを選ぶことになります。

用のある長物

前回の塔は、間伐材にあえて用途を与えませんでした。今回はその逆で、人を泊めるという、はっきりした役目があります。

ただし、どちらにも共通する考えがあります。間伐材を、木であったことを忘れた「材料」として扱わないこと。年輪も、小口も、不揃いな太さも、そのまま見せること。

もっと森にいたかった木が、今度は人を迎え入れる。木のままの姿で泊めてくれる宿があってもいい。そんな考え方もある、という一つの提案です。