コンチネンタルレストラン「ザ バンブー」。その物語は、レストランの内部だけで完結するものではありません。ホテル内のカクテルラウンジ、そして近くの超高層ビルの最上階に設けられた「東京ジョンブル」。三つの空間は、地上と天空を結ぶひとつの流れとして構想されました。
この三点を結ぶ見えない線を、紅紫緑線(こうしりょくせん)と呼びます。紅は地上のワインレッド、紫は天空のワインバイオレット、緑はバンブーグリーン。目には見えないエネルギーが、レストランとラウンジを介して天と地を行き来する――それがこの計画の骨格です。
プラットホームとしてのカクテルラウンジ

カクテルラウンジには二つの顔があります。ひとつはザ バンブーのウェイティングバー。もうひとつは、一般のゲストに開かれたカクテルラウンジ&ワインバーです。
色彩はワインレッド。ザ バンブーのバンブーグリーンに対しては補色関係を意識し、天空のワインバイオレットに対しては同調する色彩として構成されています。二つの世界のどちらにも通じる色を持つことで、この場所は天と地を乗り継ぐプラットホームの役割を担っています。
磨き込まれた石のカウンター、床に映り込む光。足元に沈む深い赤は、これから昇っていく空への助走のようでもあります。
天空のワインバイオレット ― 東京ジョンブル

超高層ビルの頂に置かれた東京ジョンブル。黒い石の回廊を進むと、両側から紫の光が滲み、円形に垂れ下がるファイバーが客席をやわらかく囲みます。
天井から垂れ下がる繊細なファイバーは、天空のそよ風を地上へ届けるという思想を視覚化したものです。一方、地上のザ バンブーからは、竹林を吹き抜けるそよ風が天空へ昇っていく。天と地の風が交わる、その見えない流れを、光と色彩によって表現しています。

地上の灯りは、天空からのおくりもの
夜の街に広がる無数の灯り。その一つひとつを、天空のジョンブルから地上へ届けられた、ささやかなおくりものとして捉える。
一方、地上のザ バンブーからは、目には見えないバンブーグリーンが天空へと届けられる。ジョンブルで食事をする人は、実際には見えない地上の竹の緑を、心の中で眺めているのかもしれません。
天空から地上へ、地上から天空へ。光と色彩、そしてそよ風が行き交う。三つの空間は、互いを見上げ、見下ろしながら、ひとつの物語として結ばれていきます。

「日本人にあの紫は使えない」
東京ジョンブルは開業後、北米の大使館関係者をはじめ、多くの外国人ゲストに親しまれる店となりました。日本ディスプレイデザイン賞にもノミネートされたと伝えられています。当時としては、建築・室内デザインの分野で注目すべき出来事でした。
そのとき多く寄せられたのが、「設計者は外国人なのか」という質問でした。日本人にはあのバイオレットは使えない、使いこなせない、と。
けれど歴史を振り返れば、紫はむしろ日本人がもっとも大切にしてきた色のひとつです。聖徳太子の冠位十二階で最上位に置かれたのは紫。深い紫は長く高貴な身分にしか許されない「禁色」とされ、江戸の町では粋な「江戸紫」が人々の憧れになりました。
扱いが難しいのは、色そのものではなく、その色に込められた重みなのかもしれません。
その紫を、天空のワインバイオレットとして現代のレストラン空間に大胆に取り入れる。地上のワインレッド、竹のバンブーグリーン、そして天空の紫。
三つの色は、それぞれ独立した装飾ではありません。天と地を結ぶひとつの物語として構成されています。
色彩は空間を飾るためだけにあるのではない。離れた空間を結び、人の想像力を動かし、建築に物語を与えることができる。
ザ バンブーから東京ジョンブルへと続く構想は、その可能性を示しています。