チャペル ロックストーン ― 大地の片隅に、置かせていただく祈り

岩、赤土、赤い砂岩、そして風に運ばれる赤い砂。見渡すかぎり、そこは「レッドストーン」の世界です。人の営みよりもはるかに古い時間が、幾重もの縞模様となって大地に刻まれています。

この土地に、ひとつのチャペルを建てる計画が持ち上がりました。設計を託されたのは、日本人の設計者です。

異なる文化から、チャペルを考える

日本人にチャペルの設計を依頼する――国内であれば、名のある建築家が手がける例は少なくありません。しかし異なる宗教文化の中でチャペルを設計することは、建築家にとって特別な問いを伴います。

クライアントは、おそらく一般的な教会建築の姿を思い描いていたのかもしれません。

けれども、この土地を知る設計者には、別のものが見えていました。過酷な自然、独特の環境。その前で、教会の様式を持ち込むことよりも先に問うべきことがある。「建築」とは本来何なのか――設計はそこから始まりました。

チャペル0 ― 十字架だけは、どうかお許しを

赤い砂岩の大地に十字架が一本だけ立つチャペル0のイメージ
チャペル0。建物はなく、赤い大地に十字架が一本だけ立つ。

すべての出発点は、この一枚です。建物はありません。赤い砂岩の大地と、夕暮れの空と、一本の十字架だけ。

これはオーナーの要求には含まれていない案です。誰に向けたプレゼンテーションかといえば、クライアントであり、同時に自然であり、大地そのものでした。

建物を建てることは、どれほど配慮しても大地を傷つけることになる。自然にとって、建築は邪魔者であることを認めなければならない。人のおごりを、大地の怒りにつなげてはならない。だからまず、何も建てない姿を差し出す。そして、こう願う。
――大地の片隅に置いていただく、その最低限のしるしとして、十字架だけは、どうかお許しを。

大地からの返事は、もちろんありません。それでも、まず敬意の姿勢を示してから設計に着手する。チャペル1〜4のデザインは、この「不可視のプレゼン」を経て生まれました。

大地が起きて壁になり、天から降りて屋根になる

設計者の中で組み立てられていった物語は、こうです。

大地が起き上がって壁になる。天から神々が降りてきて屋根になる。天と地はひとつであり、大地にとって天空もまた味方である。そして大地よ、弱い罪人である私たちをお守りください――。

造形の基本は、徹底した「水平」です。規模の大小にかかわらず、大地との一体感をつくるには、限りなく水平に、水平に。垂直にそびえる尖塔ではなく、地層のように横へ横へと広がる面が、このチャペルの骨格になりました。

さらに、自然と大地の神々もこの新しいチャペルに自由に出入りできるように。建築という人間の言葉を借りながら、大地の側の「スペック」を取り入れさせていただく。それがロックストーンの設計思想です。

チャペル1 ― 起き上がる岩肌

赤い砂岩の渓谷模様をまとった傾斜する壁で構成されたチャペル1の外観
チャペル1。渓谷の岩肌をまとった壁が、大地から起き上がるように傾く。

なお、チャペル1〜4はそれぞれ別のエリアを想定した計画です。チャペル1では、赤い砂岩の渓谷を思わせる模様の壁が、地面から斜めに立ち上がります。壁同士が寄りかかり合う姿は、まさに「大地が起きて壁になった」瞬間をとらえたかのようです。

チャペル2 ― 重なり合う地層

大小の岩肌模様の壁が重なり合うチャペル2の外観
チャペル2。大小の壁が前後に重なり、地層のような奥行きをつくる。

チャペル2では、大小さまざまな壁面が前後にずれながら重なり合います。壁と壁のすき間からは植物がのぞき、光が差し込む。閉じた箱ではなく、自然が出入りできる余白をあちこちに残した構成です。

チャペル3 ― 水平の大地と一本の十字架

水平に広がる岩肌の壁と十字架が並ぶチャペル3の正面
チャペル3。低く水平に広がる壁面の上に、十字架がすっと立つ。

チャペル3は、もっとも「水平」が明快に表れた案です。横に長く伸びる壁は大地の延長のように低く構え、その足元はピロティのように浮いて、人と風を通します。チャペル0の十字架が、そのままここに受け継がれているのがわかります。

チャペル4 ― 石を積む、大地を積む

赤い石を水平に積層した壁と岩肌のエントランスをもつチャペル4の外観
チャペル4。石を積み重ねたような水平の壁が、段丘を思わせる姿をつくる。

チャペル4では、石を水平に積み重ねたような壁が、段丘のように重なります。地層をそのまま建築に置き換えたような外観に、岩の渓谷へと入っていくようなエントランスが口を開けています。

オーナーとの、ほほえましい戦い

チャペル0はオーナーの要求にない案でした。オーナーは、当初の想定とは異なる提案に、微笑みながら理解を示したといいます。

とはいえ、当初の想定とは大きく異なる提案です。オーナーにとっても、簡単に結論を出せるものではなかったかもしれません。ここから、オーナーと設計者の心地よい、ほほえましい戦いが始まります。決着はつかないかもしれません。

それでもオーナーは、設計者に対してきちんとした敬意を示してくれました。どのような結果になるにせよ、大切なのは「あなたのために、未熟ながらもてる力のすべてを提案しています」という姿勢が伝わることです。

そしてそのためには、自分自身の力を大切にすること。大地に敬意を払うように、自らの仕事にも敬意を払う――赤い大地に立つ一本の十字架は、そのことを静かに語っているように思えます。

建築とは、人間のために空間をつくることだけではない。

その土地に敬意を払い、自然と向き合い、そこに何を置くべきか、あるいは何も置かないべきかを考えることでもある。

赤い大地に立つ一本の十字架。

それは、チャペルの設計が始まる前に生まれた、最初の建築だったのかもしれません。