ルーブル・ストリーム ― ガラスのピラミッドとパリを貫く都市軸
パリの中心、ルーブル美術館の中庭に立つガラスのピラミッド。
建築家I.M.ペイによって設計されたこの建築は、歴史的なルーブル宮殿と現代建築を結びつける、パリを代表する風景のひとつとなっています。
しかし、このピラミッドを一つの建築物としてではなく、地下の逆ピラミッド、チュイルリー庭園、シャンゼリゼ、凱旋門、そして西の新都心ラ・デファンスに建つグランダルシュまで視野を広げて見ると、もう一つの興味深い都市の姿が浮かび上がります。
本稿では、まず確認できる建築史・都市史上の事実をたどり、その上で、これらの建築と都市の関係を「風水」「相似象」「ジオマンシー」「陰陽」という視点から読み解いていきます。
※本稿について
本稿で紹介する「ルーブル・ストリーム」「逆ピラミッド理論」「地門・天門」「陰陽による都市の流れ」などは、ルーブル美術館や設計者による公式な設計説明ではありません。
建築・都市として確認できる事実を踏まえながら、風水・相似象・ジオマンシーという観点から、その空間構成を読み解く試みです。
1.ルーブル・ストリームとは
ルーブルから西を見ると、パリには長大な都市の軸が延びています。
ルーブル、チュイルリー庭園、コンコルド広場、シャンゼリゼ通り、凱旋門、そしてラ・デファンスのグランダルシュへ。
異なる時代につくられた建築と都市空間が、一つの大きな流れの中に並んでいます。
この連続を単なる道路や景観軸ではなく、建築、地下、大地、方位、陰陽までを含む一つの「ストリーム(流れ)」として捉える――それが、ここでいう「ルーブル・ストリーム」です。

2.パリを貫く「歴史軸」
パリには「歴史軸(Axe Historique)」と呼ばれる都市軸があります。
チュイルリー庭園からコンコルド広場、シャンゼリゼ、凱旋門を通り、さらにラ・デファンスへ延びていく壮大な軸線です。
ところが、地図を詳しく見ると、ルーブル宮殿からグランダルシュまでのすべての建築が、完全な一本の直線として揃っているわけではありません。

ルーブル宮殿側の軸と、チュイルリーから西へ延びる歴史軸には、約6.3度の角度の違いがあるとされています。
現在のルーブル・ピラミッドも、この歴史軸そのものに完全に一致して置かれているわけではありません。
3.I.M.ペイがつないだ二つの軸
1980年代に進められた「グラン・ルーブル計画」で、建築家I.M.ペイはナポレオン広場にガラスのピラミッドを設計しました。
そのピラミッドは、歴史的なルーブル宮殿の幾何学的な構成と深く関係しています。
一方、ペイはルイ14世の騎馬像を歴史軸上に配置することを求めました。
つまり、宮殿の軸とパリの歴史軸という、完全には一致しない二つの方向性が、ルーブルの中庭で視覚的に結び直されているのです。

4.ガラスのピラミッドと逆ピラミッド
ルーブルには、もう一つのピラミッドがあります。
地上から空へ向かって立ち上がるガラスのピラミッドに対して、地下には下方へ尖る「逆ピラミッド(Pyramide Inversée)」があります。
一方は空へ、もう一方は大地へ。
この上下反転した二つの形が、「ルーブル・ストリーム」を読み解く重要な鍵になります。


5.地下を掘ることと「逆ピラミッド理論」
ここから、建築を風水・相似象という視点から見てみます。
「逆ピラミッド理論」では、人間が地下を大きく掘り、大地の内部に空間をつくった場合、それに対応するものを地上へ返すことで、地下と地上の均衡を図ると考えます。
言い換えれば、大地に手を加えたなら、その分を大地へ「恩返しする」という発想です。
この考え方から見ると、ルーブルの大規模な地下空間、地上のガラスのピラミッド、そして地下へ向かう逆ピラミッドは、別々の存在ではなく、地上と地下を結ぶ一つの構成として見えてきます。


6.グランダルシュはなぜ6.3度回転しているのか
パリの歴史軸をさらに西へ進むと、ラ・デファンスの巨大な門「グランダルシュ」に到達します。
ここには、建築史上興味深い事実があります。
グランダルシュは、パリの歴史軸に対して約6.3度回転して建てられています。
その大きな理由は地下にあります。
ラ・デファンスの地下には、高速道路や鉄道などの交通インフラが集中しています。巨大なグランダルシュを支える基礎を、こうした既存の地下構造物との関係を考慮して配置する必要がありました。
その技術的条件から、グランダルシュには歴史軸に対する約6.3度の回転が与えられました。
7.都市の東西に現れる「二つのずれ」
ここで興味深い関係が現れます。
東側のルーブル宮殿の軸とパリの歴史軸の間にも、約6.3度のずれがあるとされています。
そして西側のグランダルシュも、約6.3度、反対方向へ回転しています。
もちろん、グランダルシュの回転には地下インフラという現実的な技術上の理由があります。
しかし都市全体を俯瞰すると、長大な歴史軸の東西で、二つの建築が互いに反対方向へ振れたような構成が現れます。

8.地門から天門へ ― ジオマンシーライン
この都市構造を風水・ジオマンシーの視点から見ると、さらに別の姿が浮かび上がります。
ルーブルのガラスのピラミッドと逆ピラミッド、ナポレオンの凱旋門、エトワール凱旋門、そしてグランダルシュ。
これらを一つの流れとして捉えると、「地門から天門へ向かうライン」という読み方ができます。
ここでいうラインは、単なる道路ではありません。
建築、門、地下空間、方位などの関係から、都市の中に「不可視の軸」を見いだそうとするジオマンシー的な考え方です。

9.なぜガラスのピラミッドは都市軸と一致しないのか
ガラスのピラミッド自体は、パリの歴史軸と完全には一致していません。
ここに、ルーブル・ストリームを考える上で重要なポイントがあります。
ガラスのピラミッドを歴史軸だけに合わせれば、今度は歴史的なルーブル宮殿の建築軸との関係が崩れてしまいます。
そこで、地上のガラスのピラミッドはルーブル宮殿との関係を保ち、地下の逆ピラミッドをもう一つの起点として、凱旋門、グランダルシュへ向かう流れを読み取ることができます。
これはI.M.ペイによる公式な設計説明として確認されているものではありません。
しかし、「なぜ都市の軸と建築の軸が完全には一致しないのか」という現実の幾何学的な関係から、都市の中にもう一つの流れを見いだすところに、ルーブル・ストリームという考え方の特徴があります。

10.陽と陰が交互につながる都市
さらに、この都市軸を「陰」と「陽」の連続として見てみます。
空へ向かって立ち上がるガラスのピラミッドを「陽」、地下へ向かう逆ピラミッドを「陰」と捉えます。
そして都市軸上にある建築や門にも、それぞれ陽と陰の性格を見いだしていきます。
この考え方では、陽だけ、あるいは陰だけで力が成立するのではなく、陽は陰を通り、陰は陽を通ることで、一つの「流れ」が生まれると考えます。

11.天空と大地 ― 二つのピラミッド
ピラミッドという形は、大地に広い基部を持ち、その頂点を天空へ向けます。
逆ピラミッドは、その方向を反転させ、大地の内部へ向かいます。
上と下。天空と大地。陽と陰。
二つのピラミッドを対立するものではなく、互いを補完する存在として見ると、ルーブルの地下と地上は一つの空間としてつながって見えてきます。

12.凱旋門とグランダルシュ ― 都市に置かれた「門」
パリの歴史軸には、エトワール凱旋門とグランダルシュという、巨大な「門」の形を持つ建築が存在します。
中央に大きな開口を持つこうした建築を、東洋の「月光門(ムーンゲート)」にも通じる空間として見ることもできます。
これは西洋建築史上の分類ではなく、形態の類似性から空間の意味を読み取る考え方です。
門は、単に人が通過するための構造物ではありません。
こちら側と向こう側、内と外、ある領域と次の領域を結ぶ境界でもあります。
そう考えると、ピラミッドと門が連続するパリの都市軸は、建築物の集合ではなく、「通過」と「流れ」によって構成された都市空間として見ることができます。
13.歴史軸はなぜ「約26度」傾いているのか
パリの歴史軸には、もう一つ興味深い角度があります。
シャンゼリゼを中心とする歴史軸は、真の東西方向に対して約25.7度、つまり約26度傾いています。
これは、ルーブルからラ・デファンスのグランダルシュへ向かう位置関係を座標から見ても、おおむね確認することができます。
ただし、この「約26度」と、ルーブルやグランダルシュに見られる約6.3度のずれは、まったく別の角度です。
約26度は、パリの歴史軸そのものが真の東西方向に対してどちらを向いているかを示す角度です。
一方の約6.3度は、歴史軸と個々の建築の軸との間に生じている角度差です。
この二つを分けて考えると、パリの都市構造がより分かりやすくなります。
また、この約26度という方向について、太陽の動きとの関係を指摘する解釈もあります。
ただし、これは角度そのものとは分けて考える必要があります。
14.ルーブル・ストリームが問いかけるもの
ここまで見てくると、パリには「目に見える都市」と、その背後にある「目に見えない関係」という二つの姿があるように思えてきます。
ルーブル宮殿とパリの歴史軸が完全には一致していないこと。
I.M.ペイがルイ14世の騎馬像を歴史軸上に配置したこと。
グランダルシュが地下インフラとの関係から約6.3度回転していること。
そして結果として、都市軸の東西に約6.3度という二つの「ずれ」が向かい合うように現れていること。
こうした建築と都市の事実を土台として、ガラスのピラミッドと逆ピラミッドを「陽と陰」、地下と地上を「大地への作用と回帰」、ルーブルからグランダルシュまでを「地門から天門へ流れるジオマンシーライン」として読み解いていく。
それが「ルーブル・ストリーム」という見方です。
もちろん、それが設計者たちの意図だったと断定することはできません。
しかし、建築を一つの建物だけで終わらせず、地下、大地、天空、方位、都市、そして人間の動きまで含めた「流れ」として見ると、普段とは違った都市の姿が現れます。
建築とは、建物だけなのでしょうか。
それとも、建物と建物の「あいだ」にも、私たちがまだ気づいていない何かが存在するのでしょうか。
ルーブル・ストリームは、その問いをパリという巨大な都市空間の中に投げかけています。
関連する記事
ルーブル・ストリームで取り上げた「都市の軸」「天地」「陰陽」「流れ」という考え方は、いしらべで紹介している風水、ピラミッド、相似象の考察ともつながっています。