山が崩れる。
川が氾濫する。
海岸が削られる。
地震によって大地が動き、建物が被害を受ける。
私たちは、こうした現象を「災害」という言葉で捉えます。
しかし、その土地をもっと大きな視点から見てみると、山には山の形があり、川には川の流れがあり、谷には水の集まる方向があります。
そして人間は、その大地の上に道路をつくり、山を削り、川の流れを変え、都市や建物をつくってきました。
自然と人間を別々に見るのではなく、天・大地・水・人・建築を一つのつながりとして見る。
その一つの考え方が、「相似象(そうじしょう)」です。
相似象という視点から自然の形と変化を見ていくと、山や川だけでなく、その先にある都市や建築、さらに人間の暮らしまでが、一つの大きな環境の中に存在していることが見えてきます。

空間・地表・地下を一体の関係として捉えた概念図。
人間と建築を、その周囲に広がる環境の中から考える。
スカイチー、グランドチー、マグネティックチーとは
この図では、人間が暮らす空間を、地表だけではなく、その上に広がる空間と地下まで含めて捉えています。
そこで使われているのが、「スカイチー」「グランドチー」「マグネティックチー」という言葉です。
スカイチー(Sky Chi)は、地表より上に広がる空間、つまり「天」から地上へ関わる領域を表す概念です。太陽や大気など、人間や建築を上から取り巻く環境を含むものとして描かれています。
グランドチー(Ground Chi)は、私たちが立ち、建築物が建てられている「大地」側の領域を表します。地形や地盤、水など、大地と人間との関係を見るための概念として位置づけられています。
マグネティックチー(Magnetic Chi)は、図の中では大地や磁気に関係する領域として表現されています。地球そのものが持つ磁気的な環境を、空間を考える一つの要素として捉えたものです。
さらに地下には、アンダーグランドや地下水脈が描かれています。
つまり、この図が示そうとしているのは、建築を地表に置かれた一つの物体として見るのではなく、「空・地表・地下」という三次元の環境の中に存在するものとして考えるという見方です。
ここでいう「チー(Chi)」は「気(氣)」に由来する表現ですが、スカイチー、グランドチー、マグネティックチーなどは、現代の気象学・地質学・物理学で使われる標準的な科学用語ではありません。本記事では、自然・大地・人間の関係を捉えるための概念として扱います。
この記事について
本記事で紹介する「相似象」や「スカイチー」「グランドチー」「マグネティックチー」などには、独自の環境観・理論に基づく概念が含まれています。
地形、水の流れ、日射、風、地質など現代科学によって測定・検証される現象とは区別しながら、自然と建築の関係を考える一つの視点として紹介します。
1 「相似形」と「相似象」は何が違うのか
「相似」と聞くと、多くの人は学校で習った幾何学の「相似形」を思い浮かべるでしょう。
大きさが違っていても、互いによく似た形をしている。
これが一般的な「相似形」です。
しかし、ここでいう「相似象」は、単に形が似ているという意味ではありません。
相似形は「形」の相似。
相似象は「現象」の相似。
形だけではなく、ある場所で起きた変化が周囲の環境とどのように関係し、次の現象へつながっていくのかを見る考え方です。
特に注目するのが、自然環境や人間環境における「破壊の連鎖」です。

「相似形」と「相似象」を区別し、
山、丘、森・林、住宅、人を連続する環境として捉えた概念図。
図では、
山 → 丘 → 森・林 → 住 → 人
という関係が描かれています。
山だけを見るのではなく、その先にある丘、森、住宅、都市、そして人間までを見る。
一つの場所で起きる変化を、その場所だけで終わるものとして考えないところに「相似象」の特徴があります。
2 山から丘へ、森へ、そして人の暮らしへ
山の下には丘があり、その先には森や林があり、さらに住宅や都市があり、そこに人間が暮らしています。
自然環境と人間環境は、途中で完全に切れているわけではありません。
例えば、大雨によって山の斜面が崩れれば、その影響が斜面の下へ及ぶことがあります。
河川の上流で大量の雨が降れば、下流の水位に影響します。
森林や土地利用が変化すれば、水の流れ方や地表の状態が変わる場合もあります。
相似象では、こうした環境の連続性を「破壊のリレーション」という視点から捉えています。

山から丘、森、住宅、人へと続く環境の関係を「破壊のリレーション」として表した概念図。
図には複数の「破壊ポイント」が描かれています。
一つの破壊を単独の出来事として見るのではなく、その前後にある自然や人間環境との関係まで見るという考え方です。
ただし、これは「山の一か所が壊れれば、必ず順番にすべてが壊れる」という自然科学上の法則を意味するものではありません。
実際の災害は、地質、地形、地下水、降雨量、植生、斜面勾配、土地利用、構造物など、多くの条件によって変わります。
ここから読み取りたいのは、一つの場所だけを見るのではなく、その前後にある環境との関係を見るという視点です。
3 自然の「破壊」は、形を変える働きでもある
私たちは山崩れや洪水を見ると、「自然が壊れた」と考えます。
しかし地球の長い時間から見れば、山は隆起し、風化し、削られます。
岩石は砕け、土砂は水によって運ばれます。
川は大地を侵食し、海岸線も波によって形を変えていきます。
自然界では、「つくられること」と「壊されること」が絶えず繰り返されています。
人間にとって問題になるのは、その変化する場所と生活圏が重なったときです。
山の斜面が崩れても、その先に何もなければ地形変化の一つです。
しかし、その下に住宅や道路があれば、人命や暮らしに関わる災害になります。
自然の変化と人間の空間は、別々のものではないのです。
4 高さ10メートルの裏山が崩れたら
例えば住宅の裏に、高さ10メートルほどの斜面があるとします。
「もし崩れたら、土砂はどこまで来るのだろう」
これは建築や土地利用を考える上で重要な問題です。
ただし、「高さ10メートルだから水平距離30メートルまで届く」というように、高さの何倍という数字だけで実際の到達距離を一律に決めることはできません。
斜面の角度、地質、崩壊する土量、地下水、水分量、植生、地表面の状態、途中にある構造物などによって結果は大きく変わります。
一方で、斜面の高さと水平距離、傾斜角度、崩壊した物質の広がりを「形」として考えることは、危険を理解する一つの入口になります。
重要なのは、単純な数字だけを法則として当てはめることではありません。
地形の形を見る。そして、その先に何があるのかを見る。
そこから建築や人間の暮らしとの関係を考えていきます。
5 水は人間の境界線を知らない
大雨が降ったとき、水は土地の所有権や行政区域を見て流れるわけではありません。
水は基本的に、高いところから低いところへ流れます。
小さな流れが集まり、谷へ入り、河川へ向かいます。
現在は住宅地になっていても、かつて谷だった場所があります。
暗渠になった川や水路もあります。
昔は湿地だった土地が、市街地になっている場合もあります。
だから土地を見るときには、現在の街並みだけではなく、古地図、地形図、標高、地質、過去の災害記録などを重ねて見ることが重要になります。
建物を見る前に、大地を見る。
相似象を建築へつなげて考えるとき、この視点は非常に重要です。
6 気候風土・水土・風水
土地と建築との関係を考えるとき、「気候風土」「水土」「風水」という異なる視点があります。
気候風土は、気温、雨、雪、風、湿度、日射など、その地域を特徴づける気候と土地の条件です。
水土は、水と大地との関係です。川、地下水、湧水、湿地、土壌、地形などは、人間の生活や建築を支える重要な基盤です。
そして歴史的な風水では、山、水、地形、方位などを読みながら、人間が暮らす場所を考えてきました。
これらは同じ学問ではありません。
現代科学によって測定・検証されるものと、歴史的な思想や環境観として形成されてきたものは区別して考える必要があります。

スカイチー、グランドチー、マグネティックチー、地下水脈などを
一つの環境として捉えた「四大気・回帰」の概念図。
四大気と「回帰」という考え方
この図では、空から大地、さらに地下へと続く環境を、それぞれ独立したものではなく、互いに関係するものとして表しています。
上空にはスカイチー、地表にはグランドチー、大地にはマグネティックチー、さらに地下には地下水脈などが描かれ、その周囲を「回帰」の矢印が取り巻いています。
ここで重要なのは、上と下を別々に見るのではなく、天から大地へ、大地から地下へ、そして周囲の空間へという循環的な関係として環境を見ようとしている点です。
建築もその途中に存在します。
人間もまた、その環境の外側にいるのではなく、その中で暮らしている存在として描かれています。
なお、ここで示されている「四大気」や「回帰」を、気象学や物理学でいう大気循環などと同じものとして扱うことはできません。あくまで、この環境観の中で自然と人間の関係を表現するために用いられている概念です。
7 「天・地・人」という世界の見方
東アジアには古くから「天・地・人」という世界の捉え方があります。
天。
地。
そして、その間で暮らす人。
人間だけを自然から切り離すのではなく、天と地との間に人間を置いて世界を見る考え方です。

「天・地・人」「天地一体」「天の写しは大地」という関係を表した概念図。
「天」を自然環境という視点から見れば、太陽、雨、風、気温など、人間が自由に支配することのできない大きな条件があります。
「地」には、山、川、谷、地質、土、地下水があります。
そして「人」は、その間に道路をつくり、都市をつくり、建物を建てて暮らします。
さらに、この「天」と「地」の関係を風水という視点から表したものが次の図です。

「天の写し―大地」「天地一体」と風水との関係を表した概念図。
「天の写しは大地」という表現も、自然科学上の公式として読むのではなく、人間を自然から切り離さず、天・大地・人を一体の関係として見る環境観として捉えると分かりやすくなります。
8 建築は自然の外側には存在しない
現代の都市にいると、自然と建築は別のもののように見えます。
道路は舗装され、地面はコンクリートで覆われ、川は護岸で囲まれ、雨水は地下の排水管へ流れていきます。
しかし、大雨が降れば水は低い場所へ集まります。
地震が起きれば地盤の違いが現れます。
強い風が吹けば、建物の形や配置によって風の流れが変わります。
どれほど建築技術が発達しても、建物を自然条件から完全に切り離すことはできません。
建築は必ず、どこかの大地の上につくられています。
9 相似象から建築空間を見る
相似象という考え方を広げていくと、山や川といった自然環境だけではなく、都市空間、建築空間、さらに室内空間へと視線が移っていきます。

さまざまな「流れ」を空間計画へ結びつけて考えた「ストリームリレーション」の概念図。
ストリームリレーションとは
この図では、空間の中に存在すると考えるさまざまな「流れ」をストリームとして表しています。
図中には、磁性に関する「マグネティックストリーム」、太陽や水に関係するストリーム、地球の自転軸に関係するとするストリームなどが描かれています。
さらに、それらを敷地や建築の動線・空間構成へ結びつける「大地の流線計画」「空間の流線計画」という考え方へ展開しています。
これらの「ストリーム」のすべてが、現代科学で建築設計の因果関係として確立されているわけではありません。
一方で、実際の建築設計でも、太陽の方向、風、水の流れ、地形、人の動線など、敷地を通るさまざまな「流れ」を読むことは重要です。
大きな大地から都市へ。
都市から敷地へ。
敷地から建築へ。
建築から室内へ。
規模は変わっても、空間同士は完全に切り離されているわけではありません。
例えば、屋根に落ちた雨水は敷地へ流れます。
敷地の水は道路や側溝へ向かいます。
地域に降った雨は谷や河川へ集まります。
建物の向きは太陽や風と関係し、擁壁は地形や土圧と関係し、基礎は地盤と関係します。
建築は単独で存在する物体ではなく、より大きな環境の中に組み込まれた存在なのです。
10 流線の物語――空間の流れと人間の動き
相似象の考え方は、自然の中で起こる破壊の連鎖を見るだけではありません。
もう一つ重要になるのが、「流線」です。
山から水が流れ、風が通り、人が移動する。道路には車が走り、橋は川や谷を越え、都市の中では人や物が絶えず移動しています。
ここでいう「流線」は、単に建物の中の廊下や、人が歩く動線だけを意味するものではありません。
自然の流れから、道路、橋、車、人、そして目的地までを、一つにつながった空間として考える。
そこに、この資料でいう「流線」の特徴があります。
空間には、さまざまな「流れ」がある
自然界から建築空間までを見渡すと、そこには風や水、人の動き、空間のつながりなど、さまざまな「流れ」があります。ここでは、それらを「ストリーム」という視点から捉えていきます。
磁性に関わる「マグネティックストリーム」、太陽との関係から捉える「太陽のストリーム」、地球自転軸を基準としたストリームなど、いくつかの基本的な流れを設定し、それらを大地や建築空間の流線計画へ展開していく考え方です。

基本的なストリームの種類を整理した資料図。
磁性、太陽、地球自転軸などから捉えたストリームを、大地の流線、導線、空間の流線へ展開している。
図の上部には、基本的なストリームとして、磁性による「マグネティックストリーム」、太陽の「ライトサイドストリーム」、地球自転軸による「グッドストリーム」と「バッドストリーム」が示されています。
さらに、螺旋状の「グノーモン」、陰と陽の「ヘリプロテス」、幾何学的な「ジオメトリック相似象」などへ展開し、右側では「大地の流線計画」「ライトサイド導線計画」「地門から天門へのグッドライン流線計画」「空間の流線計画」として整理されています。
ここで注意したいのは、図に描かれたすべてを同じ種類の物理現象として扱うものではないということです。磁場や地球の自転のように観測できる自然現象と、この資料で用いられている独自の空間分析の概念が、一つの体系の中に組み合わされています。
その上で、大地に存在する流れを読み、それを人間がつくる建築や都市の流れへどのようにつなげていくのか。それが、ここでいう「ストリームリレーション」の基本的な考え方です。
自然から人間の動きまで、六つの段階で考える
資料では、自然と人間の空間に生まれる流れを、次のようないくつかの段階に分けて考えています。
- 自然界的(地政学的空間)流線
地形や水、風など、自然環境そのものが持つ大きな流れ。 - 自然界との共生・融合を考えた空間構成
道路や橋など、人間がつくる空間を自然の流れの中にどのように組み込むかを考える。 - 導線計画
自然と人工空間の関係を踏まえ、人や物を目的地へ導くための基本的な流れを計画する。 - 動線計画(A)
大型車両など、目的別の大きな移動を考える。 - 動線計画(B)
中小型車両など、それぞれの目的に応じた移動を考える。 - 地歩ポイント――動線の目的到達点
人や車が最終的にどこへ到達するのか。その目的地と周辺空間、人々の流れまで含めて考える。
このように考えると、自然環境と都市、道路と建築、人と車の動きは、それぞれ独立したものではなくなります。
山や川といった大きな自然空間から、道路や橋、都市、敷地、建築、そして人間の動きへ。
規模の異なる「流れ」を連続したものとして見ることが、この流線という考え方の中心にあります。
災害が起きたとき、流線はどうなるのか
この考え方が特に重要になるのが、災害が発生したときです。
道路が寸断されれば、人の移動だけでなく、救援や物流にも影響が広がります。橋が使えなくなれば、その先の地域が孤立することもあります。
また、道路や橋の被害は、電気、水道、通信など、周辺の社会基盤にも影響を及ぼす場合があります。
つまり、一つの場所で発生した破壊が別の場所の機能を失わせ、その影響がさらに次の場所へ広がることがあります。
ここでも、相似象で考えてきた「破壊の連鎖」という視点が現れます。
だからこそ、災害が起きてから対応するだけではなく、
「ここが失われたら、次に何が起きるのか」
をあらかじめ考えておくことが重要になります。
「逆相似象」――起きる前から逆に考える
この資料では、こうした考え方を「逆相似象」という言葉で説明しています。
起きてしまった現象から原因を振り返るだけではなく、将来起こり得る破壊を仮定し、そこから逆方向に空間や流線を考えていく。
例えば、
「この道路が通れなくなったらどうするか」
「この橋が失われたら別の経路はあるか」
「この地域が孤立したら、人や物資はどう動くか」
と考えていきます。
資料では、このような思考を「アブダクションスキル(仮説創造思考)」とも関連づけています。
現在ある問題を洗い出し、そこから起こり得る状況について仮説を立て、それを空間計画へ戻していくという考え方です。
KJ法などによって現状の問題を整理することも、そのための一つの方法として位置づけられています。
ここでいう「逆相似象」や「アブダクションスキル」は、この資料の理論の中で用いられている考え方として紹介しています。一般的な防災工学上の標準用語や手法と、そのまま同一のものとして扱うものではありません。
自然と人間の「共生と融合」
そして、この流線の考え方が最後に行き着くのが、自然と人間との関係です。
地球の大地は、およそ45億年という長い時間の中で形成されてきました。
人間はその大地の上で、山を削り、川に橋を架け、道路を通し、都市や建築物をつくってきました。
しかし、人間がつくる空間も、自然から完全に切り離されて存在することはできません。
この資料では、それを「自然界の意志と人間界の意志の共生と融合」という言葉で表現しています。
「自然界にも意志がある」という表現は、自然科学上の事実を意味するものではありません。
ここでは、自然を人間が自由に支配できる対象として見るのではなく、長い時間をかけて形成された地形や水、風などの働きを尊重するための比喩的な表現として捉えると分かりやすいでしょう。
自然がつくった大きな空間の中に、人間がつくる空間をどう置くのか。
自然の流れと人間の流れを、どのようにつないでいくのか。
それを考えることが、この資料のいう「共生と融合」につながっています。
11 ジオパシックストレス――地下から地上へ伝わるもの
相似象の考え方は、地上に見える現象だけを対象としているわけではありません。
もう一つの領域として、「ジオパシックストレス」という考え方があります。
一般的な相似象が、地上における上下方向や水平方向への破壊や影響の連鎖を見るのに対して、ジオパシックストレスは、地中・地下という「アンダーグランド」の領域から地上へ及ぶ影響を考えようとするものです。
ここでは大きく、次の三つの領域に分けて考えます。
- 地震に関係するもの――プレート、活断層など
- 地下水に関係するもの――地下水脈など
- 磁気・磁場に関係するもの――磁力線、磁場、「マグネティック・チー」など

「3チー空間」の概念図。地下のアンダーグランド、地表のグランド、上空の空間を一つの連続した領域として捉え、地下水脈、磁場、電磁波などと人間との関係を表している。
地下にあるものは、地上と無関係ではない
建築物は地表に建っているように見えます。しかし、その下には地盤があり、岩盤があり、地下水が流れています。
地下で起きていることと、地上の建築を完全に切り離して考えることはできません。
地盤の性質、地下水位、断層などは、建築物の基礎や安全性を考える上でも重要な条件です。
ジオパシックストレスという考え方では、さらに地下水脈や磁場などを含め、地下に存在するさまざまな状態が地上へ影響を伝える可能性を考えます。
地下で生じた現象が地上へ伝わり、建築空間、さらにそこで生活する人間へと影響が連鎖していく――。
ここにも、これまで見てきた「ストリームリレーション」や「相似象」と共通する発想があります。
「可視の相似象」と「不可視の相似象」
相似象は、もう一つの方法でも分けることができます。
目で見ることのできる現象を「可視の相似象」、直接目で見ることのできない現象を「不可視の相似象」とする考え方です。
山、川、谷、道路、建築物などは、その形や位置を目で確認することができます。
一方、電磁波、磁場、放射線、気圧などは、それ自体を直接目で見ることはできません。これらの中には、測定機器によって存在や強さを測定できるものがあります。
ジオパシックストレスでは、こうした目に見えない作用についても、空間を考える一つの要素として捉えます。
地下から地上へ――三つの「チー」
記事の冒頭で見た「スカイチー」「グランドチー」「マグネティックチー」という三つの領域が、ここで再びつながってきます。
ジオパシックストレスでは、特に地表より下のアンダーグランドに注目します。地下水脈や磁場など、目には見えにくい地下の状態が地上の空間とどのように関係するのかを考えます。
図を見ると、地下から地表、そして人間が生活する空間、さらに上空までが一つにつながった構造として描かれています。
つまり、ここで重要なのは「チー」という言葉そのものをもう一度説明することではなく、地下の現象が地表で終わらず、地上の建築や人間の空間へリレーションしていくという考え方です。
地下水脈や磁場と人間
ジオパシックストレスの考え方では、地下水脈や磁場などが重なる場所と、人間の身体、思考、行動との関係を重視します。
そのため、学校、幼稚園、病院、司法施設など、多くの人が長時間過ごす建築物については、建設前に地下環境を十分に調べることが重要であるという考え方があります。
ここでは、ジオパシックストレスとして語られてきた考え方と、現在の科学的知見を分けて見る必要があります。
地盤、地下水、断層、地中の有害物質などを建築計画の前に調査することには、地盤工学、防災、環境衛生上の明確な意味があります。
一方、地下水脈や自然の磁場が、人間の思考や行動に特定の障害を引き起こすという因果関係については、現在の一般的な建築科学や医学で確立されたものではありません。
したがって、ここでは科学的事実として断定するのではなく、地下と地上、人間と建築との関係を考える一つの空間論として紹介します。
ヨーロッパでは、どのように扱われてきたのか
ジオパシックストレスやダウジングをめぐっては、ヨーロッパ、とりわけオーストリアやドイツなどで長く関心が持たれてきました。
興味深い記述も残されています。
1990年代に公開された特許文献には、オーストリアの一部では、多くの種類の建物について、敷地をダウジングし、有害とされる「地球放射」がないことを確認しなければ、建築の計画許可が与えられないという趣旨の記述があります。
また、別の特許文献にも、ヨーロッパの一部自治体では、建築許可を出す前に「ジオパシック放射」の強度を確認するとする記述があります。
ただし、これらは特許文献などに記載された説明であり、オーストリア全土に適用される建築法を意味するものではありません。また、どの州・自治体で、どのような法的根拠によって運用されていたのかまでは、これらの資料だけでは確認できません。
したがって、「ヨーロッパではジオパシックストレスが建築法として一般的に規制されている」とまでは言えません。
一方で、地下環境や土地と人間との関係について、ダウジングや「地球放射」という考え方を含めて研究・実践してきた歴史がヨーロッパに存在することは、このテーマを考える上で興味深い点です。
見えない地下を見てから建てる
この考え方から、建築について一つの重要な視点が見えてきます。
私たちは建築を見るとき、どうしても地上に現れた形を見ます。
しかし建築物の下には、長い時間をかけて形成された地層があります。
そこには岩盤があり、地下水が流れ、場所によって地質や地盤条件も異なります。
見えている建築だけではなく、その建築を支えている「見えない大地」を見る。
これは、石から大地へ、大地から建築へと考えてきた「いしらべ」にとっても重要な視点です。
可視の世界と不可視の世界。
地上と地下。
自然と建築。
そして人間。
ジオパシックストレスという考え方は、それらを一つの空間の中で考えようとする試みとして読むことができます。
12 ストーンサークル、大地と彫刻空間
ここまで、相似象、流線、ジオパシックストレスという視点から、地上だけではなく、地下や上空までを含めて空間を見る考え方をたどってきました。
では、こうした考え方を実際の空間に重ねると、どのように見えてくるのでしょうか。
その一つの事例として中南米の大学キャンパスに設けられた「ストーンサークル」を紹介します。

大学キャンパス内に設けられたストーンサークル。
円形の大地を取り囲むように、三角形の彫刻が連続して配置されている。
建築なのか、彫刻なのか
円形の空間を取り囲むように、三角形のコンクリート彫刻が連続して配置されています。
中央にあるのは建物ではなく、大地そのものです。
人が内部へ入り、その空間を体験することができるという意味では建築的でもあり、大地の上に造形物を配置したという意味では彫刻でもあります。
ここにつくられたのは、見るためだけの彫刻ではありません。人がその中に入り、大地とともに体験する「彫刻の空間」ストーンサークルです。

上空から見たストーンサークルと、その形を示した図。
資料では、この空間を「大地の彫刻」という視点から捉えている。
大地そのものを空間の中心に置く
一般的な建築では、建物そのものが主役になります。
しかし、このストーンサークルでは少し違います。
円形に囲われた中心には、大地が残されています。
つまり、建築物を大地の上に置くというよりも、大地そのものを空間の中心として捉え、その周囲に人工物を配置するという構成になっています。
この見方は、これまで「相似象」の中で考えてきた、
建物を見る前に、大地を見る。
という視点ともつながります。
スカイチーとグランドチー
このストーンサークルは、地表に置かれた造形だけを見ていても、その全体像は捉えられません。大地の下、地表、そして天空までを一つの空間として見ることで、別の姿が見えてきます。
ここでは、上空から大地へ向かう領域を「スカイチー」、大地側から上空へ向かう領域を「グランドチー」と捉えます。ストーンサークルは、その二つの流れが出会う場所として見ることができます。

ストーンサークルを「スカイチー」と大地側のエネルギーとの交点として捉えた資料図。
「天地一体」という考え方が示されている。
ここでいう「スカイチー」「グランドチー」は、現代物理学の標準的な科学用語ではありません。
しかし、この図が示そうとしている「上空・地表・地下を切り離さず、一つの空間として見る」という考え方は、この記事全体を通して見てきた「天・地・人」という環境観とも重なります。
天地一体という空間
ストーンサークルそのものを「天地一体」という言葉で表現しています。

ストーンサークルの大地から上方へ向かう関係を「天地一体」として表した資料図。
空から大地へ。
大地から空へ。
そして、その間に人間がつくった彫刻空間がある。
このように見ると、ストーンサークルは単独の造形物ではなく、空・大地・人間の空間をつなぐものとして捉えられていることが分かります。
磁場・磁力線という視点
このストーンサークルを考えるうえで、もう一つ重要になるのが、大地の磁場・磁力線という視点です。ここでは、地表に見える地形や造形だけではなく、目には見えない大地の状態にも目を向けています。
地球に磁場が存在すること自体は、物理学的に確認されている現象です。
地球は巨大な磁場を持ち、その方向や強さは場所によって異なり、時間とともにも変化します。

大地と地球の磁力線との関係を示した資料図。
地球規模の磁場を、土地や空間を考える要素の一つとして捉えている。
一方、この資料では、こうした磁場・磁力線とストーンサークルの位置や形との間に、さらに独自の空間的な関係を読み取っています。
ここは、地球磁場という測定可能な物理現象と、そこから空間の意味を読み取る相似象の考え方を分けて見る必要があります。
大地を「直す」のではなく、大地を読む
このストーンサークルの興味深さは、目に見える造形だけではありません。その下にある大地、周囲の地形、そして天空までを含めて、一つの空間として捉えているところにあります。
まず大地を見る。
地形を見る。
その土地に存在すると考えられている流れを見る。
そして、その上にどのような人工物を置くのかを考える。
つまり、最初から形をつくるのではなく、大地を読んだ後に空間を考えるという順序です。
これは、一般的な建築設計や土木工学の方法とそのまま同じものではありません。
一方、磁場や「チー」が人間や建築にどのような影響を与えるのかについては、現代科学ではまだ十分に解明されていない部分があります。
それでも、建築や彫刻を大地から切り離された物体としてではなく、その土地の地形、地質、水、方位、空間との関係の中から考えるという視点には、この記事で見てきた相似象との共通点があります。
「触らない」という考え方
このストーンサークルからは、既存の大地や空間に対して、むやみに手を加えないという考え方も見えてきます。まずその土地の状態を読み、必要以上に動かさない。そこにも、相似象の一つの考え方があります。
それを、「傷口にむやみに触らない」という比喩で表現しています。
自然環境に人間が介入するとき、何かを新しくつくることだけが解決ではありません。
すでに存在している地形や水の流れ、土地の状態を読み、場合によっては「何もしない」「残す」という判断もあります。
この考え方は、現代の環境設計や景観計画と同一の理論ではありませんが、大地への介入を最小限にしようとする姿勢として読むことができます。
ストーンサークルから相似象へ
ストーンサークルは、一つの彫刻作品として見ることもできます。
しかし相似象という視点から見ると、その外側にさらに大きな空間が見えてきます。
空があります。
大地があります。
地下があります。
磁場があります。
そして、その中に人間がつくった彫刻があります。
一つの造形物だけを見るのではなく、その造形物が置かれた大地まで見る。
このストーンサークルの事例は、「相似象」という考え方が自然の観察だけではなく、彫刻、建築、都市、そして空間計画へ展開していく一つの例として見ることができます。
13 ダイナミック・ムーンライトゲート、太平洋と大地を結ぶ建築
「流線」という考え方は、大地や自然を読み取るだけではなく、実際の建築空間へどのように展開できるのでしょうか。
その考え方を、実際の建築空間から見てみましょう。舞台は、メキシコ・イスタパの太平洋岸です。
現在のラス・ブリサス・イスタパ、旧カミノ・レアル・イスタパ。メキシコを代表する建築家リカルド・レゴレッタによって設計され、1981年に完成した大規模なリゾートホテルです。
ここには、青い太平洋と赤い大地、険しい山の地形、強い太陽の光、そして鮮やかな色彩を持つ巨大な建築があります。
建物だけを見るのではなく、海・大地・建築の間に生まれる「流れ」という視点から、この空間を見ていきます。

海と大地を「ムーンライトゲート」で結び、二つの空間を共生・融合させるという考え方。
太平洋と赤い大地の間に建つ
イスタパの海岸では、広大な太平洋の背後に山々が迫ります。
青い海と空、乾いた赤い大地。その二つの強い自然環境の間に、巨大なホテルが置かれています。

太平洋と山の間に建つラス・ブリサス・イスタパ。
建築と大地が一体となった巨大な風景をつくっている。
ここで重要になるのが、自然と建築を対立させないという考え方です。
海に対して巨大な壁を立て、山を押さえ込むのではなく、建築を地形の一部として考える。レゴレッタの建築にも、斜面や気候、植生と建築を結びつけようとする姿勢を見ることができます。
巨大な建築でありながら、自然の上に君臨するのではなく、大地の中へ入り込んでいく。
ここから、この建築と「流線」との関係が見えてきます。
海・大地・建築を一つの空間として見る
建築を単独の物体としてではなく、海、山、大地、空とつながった一つの空間として見てみます。

海、ビーチ、建築、大地を一つの空間として捉え、そこに複数の「流れ」を重ねた概念的プランニング。
ここには「マグネティックチー&グランドチー」「スカイチー」「ドラゴンの通り道」といった言葉が記されています。
これらは現代建築学や物理学で一般的に使われる専門用語ではなく、ここでの空間分析に用いられている独自の概念です。
海から山へ、大地から天空へ。そして、その間に存在する建築へ。
自然と建築を別々に切り離すのではなく、それぞれの間にどのような流れが存在するのかという視点から空間を捉えています。
建築の形そのものに流れを見る
ホテル全体を上空から見ると、建物は赤い大地の地形に沿うように、大きな弧を描いています。
この形を「ストリーム」という視点から見ると、建築は単に客室や施設を並べたものではなく、海と大地の間に生まれる流れを受け止める、大きな一つの形として見えてきます。

赤い大地に沿って広がるホテルの形態と、そこに生まれる流れを読み取った模型とスケッチ。
円弧を描く建築、太平洋、山の地形、そして中央に設けられた大きな開口部。それぞれを別々に見るのではなく、一つの流れとして捉えることで、次に見る「ムーンライトゲート」の意味がより分かりやすくなります。
巨大な「月光門」
その考え方を象徴するのが、「ダイナミック・ムーンライトゲート」です。

「ムーンライトゲート(月光門)」と呼ばれる大きな開口部。
建築の向こうに太平洋が広がる。
壁によって海を遮断するのではなく、巨大な開口部を設けることで、視線と空間を太平洋へ抜いていく。
ここでは、この門を海と大地を結ぶ一つの流線として捉えます。
単に壁に開けられた「穴」ではありません。
海、空、光、風、そして人の視線や動きが通り抜ける「門」として見ると、この空間の意味が変わってきます。
太平洋と赤い崖、戦わない空間構成
この空間をよく表しているのが、
「太平洋と赤い崖、戦わない空間構成」
という言葉です。
太平洋は巨大です。山もまた、人間の建築とは比較にならないほど大きな存在です。
その自然に建築を対抗させるのではなく、海と山の間に建築を置き、その双方との関係をつくっていく。
それは、これまで相似象の中で見てきた「共生と融合」という考え方にもつながります。
自然を征服する建築ではなく、自然の中に自分の場所を見つける建築です。
大地の色を建築に纏わせる
このホテルでもう一つ強く印象に残るのが、鮮やかな色彩です。
赤、ピンク、オレンジ、黄土色。
一見すると非常に人工的な色ですが、周囲の乾いた山や赤い大地と並べて見ると、それらの色が自然から完全に切り離されたものではないことが分かります。

山の大地と建築の列柱。
大地の色と建築の色が重なり、独特の色彩のリズムをつくっている。
建築だけに色を塗るのではなく、大地の色を建築が纏う。
色彩もまた、建築と土地を結ぶ一つの方法になります。
自然の形と、人間がつくる幾何学
一方で、この建築には直線、円、列柱、球体など、明確な幾何学的形態が繰り返し現れます。

自然の大地と、人間がつくった幾何学的な形。
球体、壁、開口部が自然の風景と向き合う。
自然の山には、完全な直線や円はほとんどありません。
それに対して、人間は幾何学によって建築空間をつくります。
しかし、ここでは自然と幾何学が単純に対立しているわけではありません。
大地の起伏と人工的な形。自然の色と人工的な色。それぞれの違いを残しながら、一つの風景をつくっています。
自然を建築に変えるのでも、建築を自然に似せるのでもない。
異なるものを対峙させながら、同じ空間の中で共存させる。
そこにも「共生と融合」という考え方を見ることができます。
色彩・光・影がつくる流れ
ホテルの内部へ入ると、赤やピンクを基調とした壁が連続し、その間から青い空や太平洋が現れます。

赤、ピンク、オレンジなどの色彩によって構成された建築空間。
開口部の先には空や海が現れる。
壁、階段、列柱、開口部、光、影、そして空。
人が歩くにつれて見えるものが次々と変化します。
ここでいう「流線」は、地図の上に一本の線を引くだけのものではありません。
人の身体が動き、視線が動き、光と影が変わり、壁の向こうに海が現れる。
空間を体験する時間そのものが、一つの流れをつくっていきます。
一つの建物ではなく、一つの風景として見る

壁、列柱、海、山、植物、光と影。
それぞれの空間が連続し、一つの風景をつくっている。
一つ一つの壁だけを見るのではなく、それらを連続した空間として見る。
さらに、その外側にある海や山まで含めて見る。
そうすると建築は、単独で存在する「物体」ではなく、大地の中に組み込まれた一つの風景として見えてきます。

多様な色彩と幾何学によってつくられた空間。
その向こうには、常にイスタパの大地と空が存在する。
ストーンサークルからムーンライトゲートへ
前章のストーンサークルでは、大地そのものを読み、その上に彫刻空間を置くという考え方を見ました。
ここではさらに規模が大きくなります。
海、山、大地、建築、色彩、光、風、そして人の動き。
それらを別々のものとして見るのではなく、一つの空間の中でつながるものとして捉えていきます。
大地を読む。
そこにある流れを読む。
そして、その流れと戦うのではなく、建築によってつないでいく。
「ダイナミック・ムーンライトゲート」という考え方は、その関係を象徴的に表しています。
建築とは、大地の上に置かれた物体だけではありません。
海と山の間に立ち、光と風を受け、人がその中を歩く。
そう考えると、建築もまた、自然と人間の間に生まれる一つの「流線」として見ることができます。
14 ジオメトリック相似象 形の相似から現象の相似へ
相似象という考え方を、さらに都市や建築へ展開したものが「ジオメトリック相似象」です。

「形の相似」と「現象の相似」を、人間環境や都市・建築の空間計画へ展開した
「ジオメトリック相似象」の概念図。
ジオメトリック相似象とジオマンシープランニング
図では「相似象」を、形の相似と現象の相似という二つの方向から捉えています。
幾何学的な形の破壊だけではなく、その破壊によって起こる現象まで視野に入れ、それを都市空間、建築空間、室内空間へとつなげています。
そして、こうした環境の関係を読みながら計画する方法を、図では「ジオマンシープランニング」あるいは「ジオ設計」と表現しています。
「ジオマンシー」という言葉には歴史的に複数の意味がありますが、ここでは大地や自然環境と人間の空間との関係を読み、それを都市や建築の計画へつなげようとする考え方として使われています。
つまり、相似象は自然を眺めるだけの考え方ではありません。
自然の中に都市や建築をどう置くのか。
破壊につながる関係をどう避け、人間の空間をどう守るのか。
そこまで考えようとしている点に、この理論の建築的な特徴があります。
15 「似ている」と「同じ」は違う
相似象を考える上で、特に注意しておきたいことがあります。
二つの現象が似て見えることと、その原因が同じであることは別です。
小さな水の流れと巨大な河川。
砂山の崩壊と実際の地すべり。
樹木の枝分かれと河川網。
そこに形や構造の類似を見ることはできます。
しかし、形が似ているというだけで、同じ物理法則や同じ原因によって生じていると結論づけることはできません。
だからこそ相似象は、答えそのものとしてではなく、
「なぜ似た形や現象が現れるのか」
「その前後には何があるのか」
「一つの変化が、その周囲とどのようにつながっているのか」
と考えるための一つの視点として見ることができます。
16 災害を見ることは、大地を見ること
災害が起きると、私たちは被害を受けた建物を見ます。
しかし、その建物だけを見ても分からないことがあります。
その後ろには山があります。
下には地盤があります。
近くには川があります。
空からは雨が降ります。
地下には水が流れている場合もあります。
さらに過去へさかのぼれば、その土地が昔は川だった、谷だった、湿地だったということもあります。
建築を理解するためには、建物の外へ視線を広げなければならないことがあります。
自然災害を考えることは、建物だけを見ることではありません。
その建物が立っている「大地」を見ることでもあるのです。
17 石を見ることから、大地を見ることへ
「いしらべ」では、これまで世界各地の石と建築を見てきました。
大理石、御影石、石灰岩、砂岩、トラバーチン。
石を調べていくと、その石が生まれた地質へたどり着きます。
地質を調べると、山や川、海、火山、地殻変動へと話が広がっていきます。
そして、その大地の上に人間が建築をつくっています。
石を見ることは、大地を見ること。
大地を見ることは、水や風を見ること。
建築を見ることは、その大地の上で人間がどのように暮らしてきたのかを見ること。
相似象、気候風土、水土、風水、そして天・地・人。
これらをすべて同じ理論として扱う必要はありません。
科学として測定・検証できるもの、歴史の中で形成された思想、そして独自に組み立てられた環境観。それぞれを区別しながら見ることが大切です。
その上で、そこには一つの共通した問いがあります。
人間は、大地とどのように関わりながら建築をつくるのか。
自然の形を見る。
水の流れを見る。
大地の成り立ちを見る。
その先にある都市を見る。
そして、その大地の上に建つ建築を見る。
「相似象」という言葉から始まる話は、最後には天・地・人 自然と大地と人間との関係へ戻ってくるのではないでしょうか。
図版について:本記事で使用している「相似象」「天・地・人」等の図版は、岡田先生よりご提供いただいた資料をもとに掲載しています。