パラカス博物館(Site Museum of Paracas Culture)

「パラカス博物館」のご紹介

 

古代の優れた文明が連綿と続いていた南アメリカでは、巨大な帝国が発生する以前に、紀元前から様々な文化が存在していました。現在のペルー付近に存在した「パラカス文化」は、紀元前800年からおよそ700年の間、この地域の人々の社会を作っていました。水の管理に優れた知識を持っていて、墳墓から見つかった埋葬品の織物は2,000年以上の時を経ても美しい色を保っています。その文化を紹介している博物館が「パラカス博物館」です。「パラカス」とは、この地に定期的に吹く強い風の名前です。

「パラカス博物館」の設計者

 

「パラカス博物館」の再建を手掛けたのは、ペルーの首都リマにある建築事務所のバークレー&クルースです。この事務所は共にペルーの首都リマ出身の、サンドラ・バークレー(サンドラ・マリア・バークレー・パニゾ)とジャン・ピエール・クルース(ジャン・ピエール・クルース・ド・ヴァロング・ラステリ)が共同で1994年に開設しました。サンドラ・バークレーは、1967年に建築業を営む建築家の父のもとに生まれました。父親の職業が後の彼女の人生に大きな影響を与えた事は明白で、幼いころから建築に関わる様々な事柄に触れて育ちました。子供の頃に父親が設計した自宅の建設を間近に見た彼女は、子供心に将来は建築家になりたいと思っていたようです。リマの大学で建築を学び、その後フランスの建築専門の学校でも勉強を続けました。学校を出てからはフランスで活動するペルー出身の建築家の元で経験を積んでいます。ジャン・ピエール・クルースは1968年に生まれ、リマの大学で建築を学びました。その他にもイタリアやチリの大学でも建築や都市計画などを学び、サンドラ・バークレーが勤めていた同じ建築家の元で建築家として活動を始めました。2人はリマの大学で出会い、フランスに居たころに結婚して2人の娘をもうけています。2人の事務所はパリで開設されましたが、21世紀に入ってすぐの頃にペルーの企画を請け負い、17年間暮らしたパリからペルーのリマに事務所を移しています。現在、彼らは、博物館や美術館などの公共の施設から、個人の住宅まで幅広く活躍しています。

「パラカス博物館」の所在地

 

「パラカス博物館」は、ペルー共和国にあるイカと言う街の近くに建設されています。ペルーは古代の文明が栄えていた地域に含まれていて、インカ帝国の首都を務めたクスコがあります。16世紀にスペイン人がこの地に来るまではインカの歴史が続き、植民地となって時に首都が内陸のクスコから沿岸部のリマに移されました。南米大陸の太平洋に面した国で、国土の南北にアンデス山脈が聳え、山々の西側の比較的狭い範囲に多くの人々が暮らしています。現地でコスタと呼ばれる沿岸部は、乾燥した砂漠地帯が多いのですが、アンデス山脈と太平洋の冷たい海流のおかげで、赤道と南回帰線の間に位置する割には、気温はあまり高くなりません。フンボルト海流と呼ばれるペルーに面した海流はとても冷たく、地球上の同じ緯度で見てもこの付近は低い海水温になっています。地球温暖化の影響を受けていないとされるこの海には、特徴的な生態系が育まれています。「パラカス博物館」のあるイカの付近にも、国が定めたパラカス国立保護区があります。ここには絶滅危惧種となっているフンボルトペンギンを始め、コンドルやペリカンなどの大型鳥類を含む鳥が生息していて、国際的な機関から重要な鳥類保護区にも指定されています。多種の海生哺乳類も生息していて、オットセイやアシカを間近で見ることができます。また、様々なクジラやイルカを観察することもできます。

 

「パラカス博物館」の特徴

 

「パラカス博物館」は、2007年に起きたマグニチュード8の地震によって崩壊した以前の博物館が建っていた場所に再建され、2016年に開館しました。正式名称は、ペルーの考古学の父と謳われた人物の名を冠した、「パラカス フリオ・C・テッロ博物館」と言います。この博物館が建っている場所は、自然保護区にもなっているので、設計者は博物館が周囲の景観を壊さないようにすることも求められていました。外観の色は周囲の砂に似た色合いの赤茶色で、まるで保護色のようになっています。簡素な形でコンパクトにまとめられながらも、収蔵物は広々とした印象を持たせて納められています。建物はポゾランセメントと言われる特殊なセメントが使用されています。セメントに混合される素材にガラス質の物質が加えられ、強度と耐久性や耐候性が上げられています。建設地は海に近く、強い風によって塩分や砂が吹き付ける所なので、建物の劣化を遅らせるとこができるこの素材が使用されました。互い違いになっているような壁が周囲に作られていて、広々とした印象があるにも関わらず、私的な空間も作り出されています。この外壁の形は、パラカス文化の織物や陶器に見られる紋様に似せて配置されています。展示室は、まるで迷路のようになっている部分もあります。これも、古代の文明が残した洞窟内を意識して作られています。しかし、全体的には現代のすっきりした建物に仕上がっています。

「パラカス博物館」のまとめ

 

「パラカス博物館」はパラカス国立保護区の中にあって、保護区内にはパラカス文化の遺跡が点々と存在しています。付近には「カンデラブロ(燭台)」と呼ばれる、海からでないと見られない地上絵があります。「パラカス博物館」は、そのまま古代の遺跡のようにも見えますが、未来の建築物と言っても納得できるような、時代を感じさせない建物になっています。

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